心理学

2019年1月 8日 (火)

ハルヒ神学vs.長門神学(5):長門詩篇Ⅲ「運命が扉を二度叩いた日(前篇)」

■長門有希詩篇Ⅲ「運命が扉を二度叩いた日(前篇)」

 運命が扉を二度叩いた日。
 それは、この惑星の暦で7月7日の夜。

 ここ弓状列島に古くからある伝説では、天の川を挟んで別れ別れに暮らすアルタイル(彦星)とヴェガ(織姫)とが、年に一度の逢い引きをするのだという。
 子どもたちは笹の葉に、願いを書いた短冊を吊るして彦星と織女星に祈るのだという。
 これらの星々が、それぞれ17光年彼方と25光年彼方にあるなんて、昔の人類は夢にも思わなかったに違いないけれども。

 そんなことをこの惑星に生を享けて4ヶ月のあいだに、常識豊かな朝倉涼子との会話や書物を通じて、わたしは知るにいたっていた。
 もちろん、わたしには子ども時代というものはない。
 肉体は、16歳の少女として、わずか15分で砂と大気から構成された。
  精神は、銀河を統括する情報統合思念体の端末。
  仕事は、この地域に住む、涼宮ハルヒという女子中学生の観測。

  情報統合思念体とは、銀河系、それどころか全宇宙にまで広がる情報系の海から発生した肉体を持たない超高度な知性を持つ情報生命体。
 それが、銀河の辺境に位置するこの惑星に興味を持ったのは、そこに発生した有機生命体に、ありえないことに知性と呼ぶべき思索能力が芽生えたため。
 情報統合思念体はそこに、もしかしたら自分たちが陥っている自律進化の閉塞状況を打開する可能性があるかもしれないと考えた。
 これら、人類と呼ばれる有機生命体の知性が一定の水準に達した5千年前から、情報統合思念体は、観測と監視のためにわたしのような人型端末を、人類に偽装して送りこみ続けて来たのだった。

 今年に入って、この惑星表面の弓状列島の一地域に、他では類をみない異常な規模の情報フレアを観測した。その中心にいたのが涼宮ハルヒだった。
 情報統合思念体は、彼女こそ情報生命体である自分たちに、自律進化のきっかけを与える存在である可能性があると判断した。
 そして、ハルヒとその身近にいる人類と直接的にコミュニケートしてより精密な情報解析を行うべく、三体のヒューマノイド・インターフェースを送り込んだ。
 それが、朝倉涼子であり喜緑江美里であり、わたし、長門有希だった。

 涼宮ハルヒが東中に入学してからは、比較的に平穏な日々が流れていた。
 ところが、この7月7日の夜。
 児童文学書を読みふけっていたわたしは、突然、時間震を感知して頁から目を上げた。
 何者かが、時間平面連続体を垂直に貫いて、未来からこの時間平面へと移動して来たようだった。
 移動体は二体。
 移動方法は二体の一方が体内に装備しているTPDDによるもの。
 TPDDは、この惑星の人類が未来世界で開発することになる時間跳躍装置。
 つまり二体のうち一体は、この時空世界にも何体か来ている、地球人類にとっての「未来人エージェント」のひとりと推測された。
 二体が実体化した場所は、なんと、このマンションから徒歩5分の距離の駅前公園。
 続けてもう一つの時間震が発生。
 今度は移動体は一体。けれど、ずっと遙かな、何世紀も後の未来からの時間跳躍者。
 これまた、駅前公園に実体化する。
 同時に、最初の時間跳躍者二体のうちの「未来人」の意識活動が、フッと消えた。
 後から来た「未来人」が、最初に来た二体のうちの一般人類らしき方へと接近する。

 これは、涼宮ハルヒに関係することなのだろうか。
 ハルヒは現在、駅前公園からやはり徒歩5分の距離にある東中の校門の傍にいる。
 生体活動はすべて正常範囲内の値。
 気がかりは、交感神経が正常値ギリギリの高い活動状態を呈していること。
 何かとんでもないことをやろうとして、気が昂ぶっている状態。
 夜の7時半に中学生が学校の校門にいるのも異例なことだし。
 わたしは、東中の2年次に在籍している喜緑さんを、体内装備型通信システムで呼び出す。
 「涼宮さんが何か企んでいることは事実です。今、校門をよじ登って校庭に侵入したところです。」喜緑さんの涼やかな声が脳内で応答する。
 どうやら校舎の屋上から一部始終を見届けるつもりらしい。「校門を内側から開けて、時間跳躍者を迎え入れました。一般人の少年で、推定年齢16歳。失神したままの未来人エージェントの少女を背負っています。」
 その後、ハルヒは自分より年上のその少年を手伝わせて、校庭いっぱいに石灰で白線模様を描いたという。
 ただちに喜緑さんが、体内装備型カメラで撮影した画像を、脳内に送信してくる。

 描き終わると少年は再び少女を背負って東中から遠ざかり、喜緑さんの体内装備型赤外線スコープの視野からも脱した。
 最初の駅前公園に戻る二人。少女は意識を取り戻したよう。
 その後の二人の行動は、まったくわたしの予想外のものだった。
 まっすぐ、このマンションをめざして近づいてくる‥‥
 こんな時、同じマンションに住んでいて頼りにすべき朝倉涼子は、目下カナダに行っている。
 脳内通信ゲートを開くが、通じない。
 情報統合思念体に緊急連絡許可を申請するが、なぜか却下される。
 もとより喜緑さんは、ハルヒに直接関連すること以外には関わってこようとはしない。
 わたし単独で、対応しなければならないようだった。

 インターフォンのチャイムが鳴る。
 「長門有希さんのお宅でしょうか」
 聞き覚えのない少年の声に、わたしは絶句する。
 なぜかわたしの名を知っている。
 「あー。何と言っていいもんか俺にもわからんのだが‥‥」
 「‥‥‥‥」
 「涼宮ハルヒの知り合いの者だ‥‥て言ったら解るか?」
 わたしは一瞬、凍りついたようになって思考を巡らす。
 涼宮ハルヒを知り、わたしのことも知っているらしい未来から来た少年。
 何者だろう。

 とにかく、開錠のボタンを押す。
 「入って」

 扉の陰から現れた見知らぬ少年は、
 「よお」と、親しい相手にするように片手をあげて笑みを浮かべた。
 その背後に隠れるようにして震えている、見知らぬ少女。未来人エージェント。
 「入れてもらっていいか?」
 無言でわたしは部屋の奥へ歩き出す。
  向き直り、ふたりが靴を脱いで上がるのを待つ。
 初めてふたりと正面から向き合う。
 少年の身長は172cm。わたしより頭2/3分は高い。
 やはり見知らぬ顔だが、少年の笑みには何か光が弾けるような感覚があった。

 少年は口ごもりながら事情を説明する。
 三年後、少年も涼宮ハルヒも未来人少女も、そしてこのわたしも、北高生としてSOS団なる部活動をしているのだという。
 「‥‥で、だ。三年後のお前はこんなものを俺にくれたんだ」
 少年が差し出す短冊には、先ほど喜緑さんから受信したばかりの、ハルヒが校庭に描いた幾何学模様と同じ模様が描かれている。

 その幾何学模様は、ハルヒが想像上の「宇宙人」に向けて、「私は、ここにいる」と発信したメッセージ。
 当の「宇宙人」であるわたしにとってはそれは、異時間同位体、つまり未来の”わたし”からの、同期指令にほかならなかった。
 わたしは短冊に指を這わせる。

 異時間同位体の当該メモリへアクセス。
 時間連結平面帯の可逆性越境情報をダウンロード。

 今、わたしは、三年後の”わたし”と記憶を共有している。
 そして、わたしは理解した。目の前にいるこの少年が、わたしの「運命」だということを。

 わたしはゆっくり眼鏡をはずす。

Photo 三年後のわたしはもう、眼鏡をしていないから。
 目の前にいる少年に、”彼”に、こう言われて以来。
 ‥‥してない方が可愛いと思うぞ。俺には眼鏡属性はないしーー

 わたしは突然、気づく。
 いままで、色のない世界に住んでいたことを。
 わたしはじっとあなたを見上げて、瞬きをする。

 「何で北高の制服着てんだ?もう入学してんのか」
 「してない。今のわたしは待機モード」
 「待機って‥‥あと三年近くも待機しているつもりなのか?」
 「そう」
 「それはまた‥‥えらく気の長い話だ。退屈じゃないのか?」
 首を横に振る、わたし。
 「役目だから」
 そういって、瞳をまっすぐ向ける。
 声にならない声が、歌となってわたしの唇から溢れる。

 ☆☆☆☆☆☆☆

 「眼鏡を外す歌」(produced and song by Yuki Nagato)

 ”‥‥してない方が可愛いと思うぞ”
 未来の記憶のなかから囁くはだれ?
 それはあなた、目の前のあなた
 三年後の世界。激しい戦闘
 体にも心にも傷を負って
 倒れたわたしをあなたは
 やさしく力強く抱き起す

 ”眼鏡の再構成を忘れた”
 ‥‥とその時わたしは言った(言うだろう?)
 ”してない方が可愛いと思うぞ”
 ‥‥とその時あなたは答えた(答えるだろう?)

 未来からの囁きにつられ
 今、わたしは、眼鏡を外す。
 その瞬間、わたしは理解した。
 今まで、色のない世界にいたことを。
 あなたからの目に見えない光を受けて、
 たった今、世界に色が与えられたことを。
 You are star
  色のない世界で見つけたの You are star
 I was snow
  星のない夜に、ひとひらの雪として
 この惑星に舞い降りた
 I was snow
 You are star
 I was snow
 You are star
         
  ☆☆☆☆☆☆☆

 でも、そのときはまだ、一時間の後に色のない世界が戻ってくるなんて、
 予想していなかった。
 運命はその日、二度扉を叩いたのだった。

 <後篇」に続く>

 (原作: Yuki Nagato /脳内口述筆記: Tsuneo Watanabe)

●口述筆記者あとがき:「長門有希詩篇」シリーズは、涼宮ハルヒ関連の二次創作(SS)です。SSの常としてハルヒ関連のあらゆるメディアの無断借用から成り立っていますが、今回は特に、『涼宮ハルヒの退屈』(谷川流作、角川書店)と、TVアニメ「涼宮ハルヒの憂鬱」 キャラクターソング Vol.2 長門有希「雪、無音、窓辺にて」を参考にしました。
 なお、画像は、TVアニメ「涼宮ハルヒの憂鬱」シリーズの「笹の葉ラプソディ」から、インターネットサイトに転載されていたものを借用しました。
 
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2019年1月 6日 (日)

夢の現象学(155):初夢はメモできず、インターネットメディアの取材に応じたような記憶の巻

■2019年1月1日。夢を見たが、寒い季節の通例でメモを怠たり、記録は3時間後。

 レム睡眠時の夢であることは確かだが、殆ど思い出せない。
 覚えているのは、何やらインターネット・メディアの取材に応じたので、送られてきた原稿をチェックしなければならない、といった話が入っていたような。
 思い出そうとしているうちに、かなり以前に見た別の夢の記憶らしきものが、微かに浮上しつつある気配。それは、ジェンダー論についての記事だったような。
 いつもながら、夢を想起しようとしているうちに、過去に見た別の夢らしき記憶が、そしてさらに過去の夢らしき記憶が‥‥というように、芋蔓式に記憶の断片が浮かび上がってくるーーというか、浮かび上がる前段階の、水面直下まで来ているのが感取される、という程度のもどかしい感覚なのだが、とにかく、夢はけっしてその夜限りの断片的なものではなく、夢同士が底の方でつながりあっていて、堅牢な構造をなしていることの、またしても例証のような夢だった。
■インターネット取材と言えば、現職時代に生命圏環境科学科で教務主任をしていた当時の、幾分かほろ苦さの混じった思い出が連想される。
 3月末ごろだった、確か、ニフティ関係のメディアだったかが、あなたの研究室の記事をニフティで紹介したいので、4月1日~3日のどれかの日程で電話取材したい、という電話をかけてきた。女性の声だった。
 4月冒頭のこの3日間は、入学式を間に挟んで教務主任は一日中ガイダンスにかかりきりの期間だ。最近の大学の日程にも無知なのかと、正直腹が立ってきて、とがった声でにべもなくことわったのだった。
 夜に自宅の方に電話してもよいとも言っていたが、自宅にまで仕事を持ち込みたくないと、これも尖った声で断った。
 いまから思えば、無理をしてでも応じればよかった。その方が、大学にとっても自分の研究にとっても広報の足しにはなっただろうにと、リタイアして以来、研究室取材を受ける機会もなくなった、今にして思うのであった。
●●●【参考文献】『夢の現象学・入門』(渡辺恒夫著、講談社新書メチエ、2016)●●●
 
 

2018年12月12日 (水)

ハルヒ神学vs.長門神学(4):長門詩篇Ⅱ「銀河の彼方にかえりたい、かえれない」(宇宙人三人娘の合唱)

注意!頁下部の記事一覧にある、11月27日記事『ハルヒ神学vs長門神学(2):長門詩篇Ⅰ「わたしがこの惑星に舞い降りた夜」』を読んでからお読みください。

■長門有希詩篇Ⅱ「銀河の彼方にかえりたい、かえれない」(宇宙人三人娘の合唱)

「ねえ、みなさん、故郷を懐かしむって、どういうことか知ってます?」
ある晩、わたしのマンションの部屋に、喜緑さんが来て言った。
喜緑江美里さんは、わたしの後から現われた、対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェース。
送り込んだのは、銀河を統括する情報統合思念体の、穏健派だという。
この惑星に来たのは最後になったけど、
わたしや朝倉涼子にない能力があって、

Kimidori_emiri

早々と涼宮ハルヒが一年生をしている東中の、二年次に編入になった。
わたしたち宇宙人インタフェースは、成長しないし齢も取らない。
だから、私たちの共通の観測対象であるハルヒが高校入学するのと同時に同学年になるためには、
3年間をマンションの一室で、ひっそりと待機モードでいなければならない。
でも喜緑さんには周囲の人に、自分たちと同じく成長していると見せる情報操作技能が、伝統的日本語で分かりやすくいえば「隠形の術」がある。
「脳内日本語辞書検索で意味はわかるけど、それがどうしたの?喜緑さん」
と、朝倉涼子。
 今夜は三人がわたしの部屋に集まって、喜緑さんの高校訪問の話を聞いている。
東中では二年生から始まる、志望校を決めるための集団での高校訪問。
その日、喜緑さんたちが訪れたのは、北高。
光陽園学院と並んで、ハルヒが入学する可能性のある高校だった。
「部活紹介で文芸部を訪れた時のことなんです。文芸部長はスコットランドのエディンバラに12歳までいたという帰国子女。その人が、今でもスコットランドが懐かしい、故郷だと思っているといって、本棚から取って見せてくれたのが、『バーンズ詩集』という小さな古い本」
 「その本、借りて来たの?」とわたし。
 「学外者には貸し出せないんだって。その代わり、一番お奨めだという詩を記憶して来たわ、長門さん」
 「聴きたい」
 「そんなことより、もうすぐおでんが煮えるわ」と朝倉涼子。
 「この惑星の人々にはたいてい故郷があって、おりにふれては懐かしむのです。地球人類を理解するのに役立つことは、何でも知っておいた方がいいでしょうね」
 「聴きたい」とくりかえす、わたし。
 喜緑さんはよく徹る声で、歌うように、「我が心はハイランドにあり」という詩の朗誦を始めた。ちなみにハイランドとはスコットランドの高地地方のこと。ロバート・バーンズは二百年前のスコットランドの詩人で、高地地方を心の故郷[ふるさと]とするスコットランド人の想いを歌い上げたものだという。
「我が心はハイランドにあり」
我が心はハイランドにあり、我が心は此処にあらず。
我が心はハイランドにありて鹿を追う。
野の鹿を追いつつ、牝鹿に従いつつ、
我が心はハイランドにあり、我いずこへ行くも。
いざさらばハイランドよ、いざさらば北の国よ。
剛勇の生地よ、価値ある者の国よ。
我いずこを彷徨[さまよ]うも、我いずこを漂泊[さすら]うも、
ハイランドの山々を我永遠[とこしえ]に愛す。
いざさらば山々よ、高く雲に覆われたる。
いざさらば大峪[たに]よ、又下なる緑の谷よ。
いざさらば林よ、又生い茂る森よ。
いざさらば急流よ、どうどうと流るる川よ。
我が心はハイランドにあり、我が心は此処にあらず。
我が心はハイランドにありて鹿を追う。
野の鹿を追いつつ、牝鹿に従いつつ、
我が心はハイランドにあり、我いずこへ行くも。
 しばし、沈黙がその場を支配した。
そうっと横を見ると、朝倉さんが涙を流している。

3

朗誦を終えた喜緑さんの目にも、光るものがあった。
わたしには涙はない。微笑むことさえできない。
わたしはユニークだから。
朝倉さんにいわせれば、それがコミュ障なのよということになるらしい。
そして有機体構成の際のバグのせいではないかと疑っているらしい。
けれども、わたしは知っている。
この二人の人格は、実在する日本人少女ふたりの人格を、
そのままスキャンして設定した、模擬人格だということを。
わたしには模擬すべきモデルはなかった。
だからゼロからこの惑星で学習して、
人格を作り上げて行かなければならない。
いつか涙の意味を知るために。
いつか微笑むことのできる日のために。
「ステキな詩。でも、わたしたちの故郷はどこ?そう、銀河の彼方の情報統合思念体。でも、もう記憶がほとんどないわ」と朝倉涼子。
「あたしもそう。情報はいつもつながっているけれど、銀河の彼方にいたときの回想記憶にはならない」と喜緑さん。
「あたしたちは、情報統合思念体の端末というより、本体から切り離されてこの惑星に放り出された、ただの有機アンドロイドなのだわ」と朝倉涼子。
「そうかな?」とわたし。「最近、夢というものを見るようになった」
「夢?あたしの見るのは、この朝倉涼子の元人格の子どもの頃の夢。ほんとの自分の夢じゃないわ」と朝倉涼子。
「わたしには元人格はない。だからわたしの夢が誰の夢かは分からない。でも、確かに見ている」
「どんな夢?教えて」と喜緑さん。
「その夢のなかでは、エックス線星は歌い、超新星は紫の輝きを放ち、渦状星雲が群れ集い、ブラックホールが音もなく崩壊していた‥‥」
 朝倉涼子がけたたましく笑い出した。「キャハハハ、超おもしろい。エックス線星が歌うだなんて」
「でも、それって、詩になるかもね。バーンズのハイランドの詩の調べに合わせて。我がふるさとは銀河の彼方、なんて。長門さん、朝倉さん、詩にして歌いましょうよ。ひょっとして記憶が甦るかも知れないから。
 喜緑さんの提案にしたがって、わたしたち三人は目と目を見つめ合った。それが、わたしたちヒューマノイド・インターフェースの、朝倉さん流にいえば有機アンドロイドの、最も効率的な情報交換と相互同調の、方式だから。
 やがて三体の宇宙人製有機アンドロイドの口から、涼やかな調べが流れ出し、おのずと合唱となった。
わが故郷[ふるさと]は銀河の彼方
光が生まれて光の果てるところ
エックス線星は歌い
超新星は紫の輝きを放ち
渦状星雲が群れ集い
ブラックホールが音もなく崩壊する
重力が果てて重力の生まれるところ
銀河の彼方にかえりたい、かえれない
銀河の彼方にかえりたい、かえれない
さよならも告げずにわたしは来た
銀河のさいはてのこの星に
砂から作られたこのからだで
この惑星の有機体に宿る
生命と知性とを観測するために
いつか役目が終われば砂になる
異郷の星の砂になる、塵になる
銀河の彼方にかえりたい、かえれない
銀河の彼方にかえりたい、かえれない
 歌い終わると、朝倉さんはさめざめと泣き出した。喜緑さんもまた、目に涙を浮かべている。
 と、次の瞬間、「しまった、おでんが煮えすぎだわ」叫んでキッチンに駆けいる朝倉涼子。まったくモードの切り替えの早い人だ。
 その後、おでんをつつきながら、しばらく談笑した。といってもわたしには、他の二個体のようにはガールズトーク機能が付いていないので、もっぱら食べるのに専念していたのだったのだが(わたしたちは地球人少女としては「大食い」らしいが、それは情報統合思念体との交信機能、環境情報制御機能を始めとして、人間には想像もつかない高度な情報解析能力や移動能力、そして有事の際の戦闘能力を維持するため)。

Photo

  煮えすぎて焦げ目のついたちくわやハンペンやさつま揚げを次から次へと頬張りながら、わたしは決心していた。北高へ入学し、文芸部員というものになろうと。

  観測対象の涼宮ハルヒが光陽園学院に行くか、それとも北高に進学するかは、現時点ではまだ不確定のはずだ。けれども、たったいま、情報統合思念体に伝達したわたしの決心こそが、不確定な未来を確定させるはずだった。

 そう、北高の制服を、セーラー服を、夜の公園で体が砂と大気から合成された時に、わたしがすでに着ていたこととも符合する。すべては「規定事項」だったのだ。

 北高文芸部室での、ハルヒとSOS団のみんなとの出会いと、「彼」との再会まで、ちょうどあと三年。未来人を伴って時間遡行をしてきた彼の来訪を、二度にわたって受けることになる、七夕の夕べまであと二か月。
 わたし、少女の姿をした対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェース、長門有希の運命の歯車は、すでにどうしようもなく回り始めていたのだった。
(原作: Yuki Nagato /脳内口述筆記: Tsuneo Watanabe)
●口述筆記者あとがき:お待たせ。「長門詩篇Ⅱ」をお届けします。ご意見ご感想などお気軽にお寄せいただければ有難いです。
 なお、 「我が心はハイランドにあり」の引用元は、『バーンズ詩集』(中村為治訳、岩波文庫、pp.190-191)ですが、なにぶん古い訳のため、旧字体旧仮名遣いを新字体・仮名遣いに改めるなど、最小限の修正を施してあることを、ご了承下さい。
 また、宇宙人三人娘の画像出演の順番は、喜緑江美里→朝倉涼子→長門有希、となっています。アニメに詳しい人には言うまでもないことですが、念のため。●

●●●『人文死生学宣言:私の死の謎』(渡辺恒夫・三浦俊彦・新山喜嗣/編、春秋社、2017)好評発売中●●●
 

2018年12月 8日 (土)

夢の現象学(154):夢二題/ハルヒ神学vs長門神学(3):涼宮ハルヒは自我体験の夢を見たか(続編)

■2018年12月3日(月)早朝。

 夢を見た。
 どこかの学会か研究集会にいた。スピリチュアル系というか、ボディーワークなどの実習を中心とした研究集会だった(註1)
 夢の中でいたのは学会後の懇親会か何かの会場で、イス席でない畳敷か板敷の広い部屋だった。そこで私はある年配の参会者に、自分のヨーガを診てもらったのだった。
 故・佐保田鶴治師直伝の座ったままできる床上体操にアーサナをいくつか組み合わせた起きぬけにベッドの上でやる15分ぐらいの自作コースを披露したのだった。
 ところがこき下ろされてしまった。そしてなぜヨーガをやったのかと訊かれてしまった。
 「なぜ‥‥をやるのか」という問いはいささか失敬な問いではないか、と、夢の中で思ったのか目が覚めてから思ったのかははっきりしない。とにかく夢では、近くにいたその人物の高弟といった人の講習会に出るがよいとか勧められたような気がする。「高弟」の方は明らかに私より年下だし、年配の権威者の方だって、同い年ぐらいかもしれない、などと思った。この辺で目が覚めた。あまり後味の良くない夢だった。
(註1) 私はこの種の集会に出ている夢を時々みる。
 だいぶ前には、この系統の学会では研究発表には出ずに付属の実習セッションにだけ出るといったことを、しばしばやっていたものだった。中で印象に残った収穫としては、20年以上前のことだが、駒沢大であったトランスパーソナル心理学・精神医学会で、スリランカから来た僧侶の指導でヴィパッサナ瞑想法を習ったこと。「私は今、ここにいる」と心の中で唱えながら室内をグルグル回るというものだった(と記憶している)が、自己意識を極限まで強めてはじめて自己を超越できるという意だと思った。これは現代の仏教研究の成果とも合致する。仏教本来の教えは、自我が存在しないという「無我の説」ではなく、何を自我と思ってもそれは自我ではないという「非我の説」だというのが定説になっているから。

 この夢で連想するのは、佐保田老師の高弟で京都にいた頃けっこう親しくしていた番場一雄先生の動静を最近は聞かないと思い、ひと月ほど前にネット検索したことだ。なんと2002年に亡くなっていたことを知ったのだった。
 享年66歳。心疾患が原因の急逝らしい。
 番場先生と言えば1980年代末に出された最初の著書を、高価なのに贈っていただいたことがあった。当時は私も、今は亡き朝日ジャーナルから時々は書評依頼がくる立場で、今年のお勧め10冊の特集企画にその本も取り上げたことがあった。今から思えば、その特集号を送って差し上げたら喜ばれただろうに。そうしておけば、その後何となく疎遠になってしまうこともなかっただろうに、などと後悔したものだった。
 それにしても66歳は、当時の男性平均寿命にもはるかに及ばない。それと関連して、沖正弘氏が64歳でガンで死去ということも知り、さらに、ヨーガ行者短命説があるのも知った。私としては、元々虚弱なのにこの年まで寝込むようなこともなく活動していられるのも、ヨーガを細々ながら続けていたおかげだと思っているのだが。
 たぶん、ヨーガ行者に一般的な菜食主義には、現代医学界が薦める適度の肉食を交えた日本食ほどには、寿命を延ばす効果がないということなのだろう。逆にいえば、みんながベジタリアンになれば、近年の天井知らずの平均寿命の延びもかなり抑えられて、超高齢化対策にもなるのではないかと、怪しからぬことをひそかに思っているのだが。
 ちなみに私自身は、一度はベジタリアンをめざしたのだが、日本社会の現状では周囲との軋轢が酷くなりそうだったので、早々に撤退してしまった。
■2018年12月4日(火)。
 夢を見た。どこかの学会のような会場にいた。まず、見知らぬ人に挨拶され、配布物や色刷りの名刺を渡された。これから発表するのだという。
 それと関係があるかどうか分からないが、何かの企画が(相変わらず)私の知らないうちに進行中らしかった。T大環境科学科(当時)の金田先生や大島さんもいたような。
 それから何がどうなったかは思い出せないが、何やらある場所に競争で行くことになった。途中の道筋には私は心当たりがあった。洞窟のような奥まった区画に、保育園のように子どもの遊具や絵本がおいてあって、ほっそりした男性の店主(?)がいるのだった‥‥。
 そのようにすでに土地勘があるので、ぐるっと壁にそって刻まれたような道を行くと、ぶっちぎりの一番乗りか。洞窟の奥まった部屋。子どもの家(保育園?)みたいに遊具や色々な家具道具で囲まれた一区画。
 「ここですか、今日の目的地は」と私は、(この夢の中でのみ)見覚えのあるほっそりした店主をその区画に見出して、尋ねる。
 「そうです」
 あとは憶えていない。
 なんとも取りとめもない夢だが、目が覚めて思い返すとこの「ある場所に行く」までの道筋の様子は、むかし行ったことのある、ディーズニーランドでの、シンデレラ城の内部を連想させる。特に最後の、ピノキオの部屋を。
 ピノキオといえば、人間になりたかった(実際、ある朝、目が覚めると人間の男の子になっていた)木の人形なのだが、ここでどうしても、人間の少年に思いを寄せる宇宙人製アンドロイド少女のことを連想してしまう。
 というわけで次に、その長門がらみで涼宮ハルヒについて述べる。
■ハルヒ神学vs長門神学(3):涼宮ハルヒは自我体験の夢を見たか(続編)
 10月11日付ブログ記事(フッサール心理学(50)涼宮ハルヒは自我体験の夢を見たか)の続きを書く。
 まず、最近参加している「フランス語圏発達心理学を原書で読む会」のテキスト、ピアジェ(J. Piaget)『子どもの世界観』の原書”La représentation du monde chez l'enfant”( P.U.F.)を読み進めて行くうちに、面白い記述に出会ったので、試訳引用しておく。
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 子どもの「自己中心性égocentrisme」が「世界が自分のまわりを回っていると子どもに信じさせる」(p.124)。
 我々の友人の一人であるある教授は、子どもの頃に長い間、次のような信念を抱いていた(我々に語る以前には誰からも隠していたのだが)。彼は世界の《支配者》、すなわち、太陽も、月も、星々も自分の《所有物である》と。(p.125)
Nain (4歳半):「お月さまは、自分が行きたいところに行くの?それとも何かで動かされているの?」《それ〔動かしてるの〕はボクだよ。ボクが歩くときにだよ。》さらにこう言った《お月さまはボクと一緒に来るんだ。ボクらについて来るんだ。》(p.125)
 ジェームズは、教師になった聾唖者の例を引用している(彼は三人称で自分の回想を物語っている)。‥‥《‥‥どうして月は規則正しく出るのかと、彼は驚きをもって自問した。そして、ただ自分ひとりに会うために出るのに違いないと考えた。それ以来、彼は、月に話しかけるようになり、彼女〔フランス語luneは女性名詞〕が自分をみてほほ笑んだり眉を寄せたりすると想像した。ついには、月が見える時に限って頻繁に鞭うたれることに気がついた。あたかも彼女が自分を見張っていて、悪さをすると監督者に知らせているかのようだった(彼は孤児だった)。彼はしばしば、月はいったい誰なのだろうかと考えた。そしてついには、自分の母なのだと信じるにいたった。なぜならば、母が生きていた時には月を見たことがなかったから。‥‥》(p.127)
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 とくに最後のジェームズからの引用が面白い。これらの例を見ていると、ハルヒの、小学6年の時に崩壊してしまった自己の唯一性という世界観も、子どもの自己中心性の一例と思えてくる。
 ここから自我体験が生じるためには、客観的世界が成立してからも、一度崩壊したはずの自己の唯一性が新たに反省的に甦り、両者の間の矛盾葛藤が意識されなければならない。ハルヒにもたしかに、矛盾葛藤があった。けれどもそれは、「なぜ私は大勢の中のひとりが私という唯一性をもって存在しているのか」という問いには向かわず、「なぜ私は大勢の中のひとりに過ぎず、唯一ではないのか」と反転してしまう。つまりここでは、唯一性が甦るのではなく、決定的に見失われてしまっているのだ。
 ハルヒの体験は、自我体験というより、子どもの自己中心性が崩壊する体験と見た方がよいのだと思う。

■付記 ハルヒシリーズファンにそっと秘密ネタを教えます‥‥

 下記の『人文死生学宣言』という本の執筆陣には、「消失世界」で涼宮ハルヒと古泉君が進学した高校のモデルとなった学校の先生が加わっています。
 今度会った時にでも、2003年ごろに涼宮ハルヒと古泉一樹という生徒が在籍していなかったか、尋ねてみるつもりです。
 もし在籍していたら、この現実世界とは「消失世界」であり、長門有希は世界を改変したのではなく元に戻したのであり、ハルヒの力によって宇宙人製有機アンドロイドにされていた自分を、元の人間に戻したのだという、「長門戻った説」(三浦、2018、p.161)が正しいことになるのです!?
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2018年11月27日 (火)

ハルヒ神学vs.長門神学(2):長門詩篇Ⅰ「わたしがこの惑星に舞い降りた夜」

■長門有希詩篇Ⅰ「わたしがこの惑星に舞い降りた夜」
 
 銀河の彼方にいたときのことは憶えていない
 わたしがわたしになったのは、白い水の結晶が舞い落ちる夜
 あとからあとから舞い落ちる、この惑星の奇蹟のひとつ
 ーーユキっていうのよーー
 誰かが、わたしの中でささやく
 ユキ‥‥ゆき‥‥雪
 この星に有り余る元素から構成されたばかりの舌という器官の上で
 わたしはこの語をころがし
 インストールされたばかりの脳内日本語辞書で変換する。
 雪‥‥ユキ‥‥由紀‥‥有紀‥‥
 有希‥‥この文字まできて、何か前方がパッと開けるような感覚があった。
 日本語辞書を脳内にさらに繰る
 希(のぞ)みが有(あ)る‥‥
 のぞみって、なに?もどかしく自分の内側に問う
 分からない。でも、この文字は、この名は
 この惑星の♀型有機知性体に多い名前。
 目立たない方がいい。わたしの任務は観測だから
 弓状列島のこの地域に棲まう、
 とある有機生命知性体の観測だから。
 これを自分の名前にしよう。
   ***

Nagatoyuki わたしはおもむろに歩き出す。
 コツ、コツ、コツ‥‥
 靴底から伝わるタイルの固さが全身を突き上げる。
 でも、この公園からどこへ?
 ザッ、ザッ、ザッ‥‥
 異質的な靴音が鼓膜に振動を届ける。
 暗い公園を見回す
 人型の影が近づく
 身長175cm。わたしよりちょうど頭一つ高い
 横幅も広い。体重78kg
 ♂型有機知性体‥‥
 いいえ、そう言ってはいけない。私は有希という人間になったのだから
 「男が近づく」と言わなければ。
 そしてわたしは少女。少女としてのこの場の適切な反応はなに?

 「ネエチャン、風邪引くよオ」
 大きな声が鼓膜を振動させる。
 警戒信号(第3度)発令
 わたしの視線が体内装備型赤外線スコープとともに
 男の顔をとらえる。
 男の視線がわたしの胸に注がれる。
 つられて思わず自分の膨らんだ胸に視線を落とす。
 「セーラー服。北高生じゃないか」
 男の視線がさらに下へと移動し、
 その目に粘っこい白い光がたたえられる。
 全身の肌に粟粒が生じる感覚
 脳内(感覚→日本語)変換辞書発動
 ‥‥オ・ゾ・マ・シ・イ‥‥ 
 警戒信号が第2度に高まる。
 「どう、オジサンと遊ばない?お小遣いあげるよ」
 ハァ、ハァと荒い息が耳にかかる。
 警戒信号第1度。防御反応準備ーー
 男の手が体に触れる寸前に、片足を蹴り出す。
 「ギャッ」という声を残し、男の体は雪舞う夜空に放物線を描き
 公園の反対側のひときわ高い樹影の先端にひっかかる。
 バキバキバキと音立てて地面に落下
 赤外線スコープを使って情報を解析する。
 動きはない。けれど生体反応は正常

 そのときーー
 コツ、コツ、コツ‥‥
 先ほどから微かに聞こえていた
 靴音が背後に近づいて止まる。
 「そんなことしては駄目よーー」
 振り向くと、わたしと同じ年頃の少女が立っている。
 身長160cm。わたしより少し高い。
 「この星で女の子でいることにはリスクがある。けれど、うまくやればそれを上回るメリットがあるわ」
 「あなたは‥‥」
 「あたしの名は朝倉涼子。あなたと同じ。情報統合思念体によってこの惑星に送り込まれた、対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェース」
 それから付け加えた。「そしてあなたのバックアップ」
 「知らなかった。わたしにバックアップがあったなんて」
 「まったくもう、あたしより2ランクは高性能のインターフェースだって聞いていたのに」
 そして、わたしの全身をまじまじと眺め、付け加える。
 「それに、この寒いのにセーラー服一枚だなんて」
 寒いって?
 そういえば先刻から、下肢のむき出しの部分に
 無数の針でチクチク刺されるような感覚。
 別に回避行動を要するほどではないのだけれど。
 脳内(感覚→日本語)変換辞書発動。
 ‥‥刺すような寒気‥‥
 朝倉涼子はこの星の言葉で「コート」と呼ばれる長い服をまとい、
 マフラーと呼ばれる布切れを首に巻いている。
 「おまけにもう、北高の制服。入学は三年も後のことだというのに。あなたを送り込んだ情報統合思念体主流派さんは、いったい何を考えてるのかしら」
 そして、私のからだに観察するような視線を注ぎーー「まさかね、有機体構成時にバグが発生したなんてね」

 ピーポーピーポー
 闇の中を近づいてくる音。私の中で警戒信号第3度が立ち上がりーー
 「救急車が来る。ここにいてはいけないわ」
 「でも、どこへ」
 「あたしたち、ヒューマノイド・インターフェースの秘密基地。高級マンションとこの惑星では、この地域では言ってるわ」
 くるりと背を向けて足早に歩みだす、彼女のあとを追う。
 コツコツ、コツコツ、と、二組の靴音を闇に響かせながら。
 聴覚感度を高めると、街中の靴音がワッと押し寄せて来てーー
 コツコツ響く音が♀型、じゃなかった女の、
 ザッザッという音が♂型、じゃなかった男の靴音と、
 たった今、わたしは学んだ‥‥
 この惑星で、とくに夜の公園のようなところに
 少女としてひとりいることの危険も。
 でも、うまくやればそれを上回るメリットがあるって、何?
 樹のてっぺんまで蹴り上げるのよりも、うまいやりかたって‥‥
 あとで、彼女に聞いておかなければ‥‥
 わたしは無言のまま、朝倉涼子のすらりとした後ろ姿にしたがう。
 やがて闇の中から光輝く巨大な建築が姿をあらわす。

 それが、この惑星に舞い降りた、初めての夜の記憶。
 桜の開花を前に季節外れの雪の舞った日だったと、
 あとから聞いた。
 銀河の彼方にいたときのことは、もう憶えていない。

 (原作: Yuki Nagato /脳内口述筆記: Tsuneo Watanabe)

●口述筆記者註:これは、長門ss(二次創作)と呼ばれるジャンルであって、「涼宮ハルヒシリーズ」に属する原作小説やアニメやマンガや音楽、画像などありとあらゆる材料の無断借用の上に成り立っています。それがssというジャンルの特性なので、別に弁解しようとも思いません。ただし、同じ長門ssの傑作である『機械知性体たちの輪舞曲』(作:輪舞の人)にだけは、感謝の意を表しておきます。原作者以上に長門有希を深く理解しているとまで一部で評されるこの怪作を読むことがなかったなら、本詩篇も書かれることはなかったでしょう。
 今後は続篇を書き継ぐべく努めると同時に、書いた分の推敲も進めてゆく所存なので、よかったらご意見をお寄せ下さい。
 なお、本篇開始に合わせて、ブログの「プロフィール」の「一行自己紹介」も手直しして8行まで増幅して置いたので、よっぽど暇な方は御改め下さい。●

■付記 ハルヒシリーズファンにそっと秘密ネタを教えます‥‥

 下記の『人文死生学宣言』という本の執筆陣には、「消失世界」で涼宮ハルヒと古泉君が進学した高校のモデルとなった学校の先生が加わっています。
 今度会った時にでも、2003年ごろに涼宮ハルヒと古泉一樹という生徒が在籍していなかったか、尋ねてみるつもりです。
 もし在籍していたら、この現実世界とは「消失世界」であり、長門有希は世界を改変したのではなく元に戻したのであり、ハルヒの力によって宇宙人製有機アンドロイドにされていた自分を、元の人間に戻したのだという、「長門戻った説」(三浦、2018、p.161)が正しいことになるのです!?
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2018年11月26日 (月)

夢の現象学(153):沖縄で見た夢と質的心理学会での人文死生学シンポジウムの巻/「長門詩篇」の構想の巻

■2018年11月25日。早朝。沖縄は名護市の名桜大学前のホテルで見た夢。

 池の傍のコンクリの上で、蜥蜴かあるいは赤ん坊恐竜が、飛ぶハエを捕まえるのを見た。
 一瞬後には、両者ともいない。ハエがマイクロ恐竜に咥えられながら、飛んでいったのかな。
 それまで、夢の中かもしくは半睡状態で考えていた、「長門詩篇」のプランに関係があるような気がするーーと、スマホにはメモ書きしたのだが、内容的には余り関係がないような。
■一昨日から私としては初めての沖縄入りをして、昨日は名桜大学での質的心理学大会に参加し、「精神医学と現象学的心理学から死と他者の形而上学へ(第2報)ーー『人文死生学宣言』の誕生」という長い題のシンポジウムを打った。
 このシンポジウムのことは、「人文死生学研究会番外編」として研究会サイトにも載せておいたから、リンクを貼っておく。3年前の仙台学会での「第一報」よりは盛況だったと思う。学会のリーダー的存在であるやまだようこさんに、指定討論者になってもらった効果もあったのだろう。やまださんと、話題提供者の一人三浦俊彦さんとの、白熱の議論が始まったところで、時間切れになってしまったのは残念だったが。
 懇親会の後、二次会では三浦さんとそのつながりの、一回り若い二人と同席した。
 ひとりは、琉球大で哲学をやっている、吉満さんというデーヴィット・ルイスの訳者として知られた方。もう一人は山下さんという、アカデミシャンでなくゲームソフト開発会社にいるという人。
 当然ながら、話はハルヒシリーズのことになった。イラスト担当のいとうのいじさん(女性)が就職したゲーム会社が、実はエロゲー会社だったという(私としては『涼宮ハルヒの観測』で仕入れたばかりの)裏話も、当然のことのようにみなさん知っていた。
 そのうちこれも当然のように、話は長門論に流れていった。
 ホテルに戻ってベッドにもぐりこんでからも、長門のことを考えていた。いままで「コミュ障の現象学から見た長門有希」だの「長門有希は輪廻転生の夢を見るか」だのといった論説的な記事を書きかけたが、どうも続かない。
 いっそ、長門詩篇としたらどうだろうか。といったことを、夢うつつでも考えていたような気がする。その後、実際に(多分レム睡眠に入って)見た、上記のマイクロ恐竜とハエの夢とは、内容は関係はなさそうなのに、夢うつつから夢へと移行したために、関係があるような気がしたのかもしれない。
 長門詩篇とは、たとえばこんな具合に始まる。
■長門詩篇(1)わたしがこの惑星に舞い降りた夜
 
 銀河の彼方にいたときのことは憶えていない
 わたしがわたしになったのは、白い水の結晶が舞い落ちる夜
 あとからあとから舞い落ちる、この惑星の奇蹟のひとつ
 ーーユキっていうのよーー
 誰かがわたしの中でささやく
 ユキ‥‥ゆき‥‥雪
 この星に有り余る元素から構成されたばかりの舌という器官の上で
 わたしはこの語をころがし
 インストールされたばかりの脳内辞書で変換する。
 雪‥‥ユキ‥‥有希
 この惑星の♀型有機知性体に多い名前
 目立たない方がいい。わたしの任務は観測だから
 これを自分の名前にしよう。

  わたしはおもむろに歩き出す。
 でも、どこへ?
 わたしの任務はこの星での個体識別名涼宮ハルヒの観測のはず。
 暗い公園を見回す。影が近づく。
 背がわたしより頭ふたつ分高い。
 ♂型有機知性体‥‥警戒信号(第3度)がわたしの中で発せられる。
 いえ、こう言ってはいけない。私は有希という人間になったのだから。
 「男が近づく」、と言わなければ。そしてわたしは少女。少女としてのこの場の適切な反応はなに?
 「ネエチャン、風邪引くよオ」
 大きな声が鼓膜を振動させる。警戒信号が第2度に切り変わる。

<続きは家に帰ってから、というより最初から書き直し、「ハルヒ神学vs.長門神学」内の連載としてアップロードします。乞うご期待!>

:

■付記 ハルヒシリーズファンにそっと秘密ネタを教えます‥‥

 下記の『人文死生学宣言』という本の執筆陣には、「消失世界」で涼宮ハルヒと古泉君が進学した高校のモデルとなった学校の先生が加わっています。
 今度会った時にでも、2003年ごろに涼宮ハルヒと古泉一樹という生徒が在籍していなかったか、尋ねてみるつもりです。
 もし在籍していたら、この現実世界とは「消失世界」であり、長門有希は世界を改変したのではなく元に戻したのであり、ハルヒの力によって宇宙人製有機アンドロイドにされていた自分を、元の人間に戻したのだという、「長門戻った説」(三浦、2018、p.161)が正しいことになるのです!?
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2018年11月21日 (水)

夢の現象学(152):『春の夢』(ポーの一族新作)の世界にハルヒシリーズのキャラとして登場したの巻

■2018年11月20日明け方。夢を見た。最後の場面では高知からの列車に乗っていた。
 第二次世界大戦が終わった直後ということになっていて、隣にはナチスに10年捕らえられていて無事帰還したばかりの男性が乗っていた。
 私は「朝倉涼子」(涼宮ハルヒシリーズのキャラで、長門有希とは別の宇宙人製有機アンドロイド)になっていた。男性とはなじみゆえ嬉しいはずだったが、なぜか二人の間はギクシャクとしていて、私はなるべく彼の方を見ないようにしていた。
 この辺で目が覚めたが、その前のエピソードが思い出せる。かつて私が勤めていた高知大学でこの男性のサークルが映画を作っているのだった。
 このエピソードの一部かもしれないが、高知駅近くで、列車が通過するのをやや高い処から見ている場面が思い出される。列車には、映画製作活動に関係のある男たちが乗っていて、私はこの活動から疎外されているという感覚があったような。その時はまだ「朝倉涼子」には成っていなくて、普通に自分だったような。
■二日前に読んだ『春の夢』(ポーの一族新作、萩尾望都)の舞台設定に、最近頭を占めているハルヒシリーズのキャラとして登場した夢だった。
 それにしても、長門でもキョンでもなく、そもそもSOS団でもない朝倉涼子とは意外すぎた。
 朝倉涼子については、8つ前の記事《フッサール心理学(50)》にこう書いただけにーー 
「朝倉涼子が最初から「明るくて社交的」に設定されることが可能だったのは、誰か実在の地球人の娘の性格をそっくりコピーして来たからでしょう。ということは、彼女には真の人格は不在であって、その喜怒哀楽も擬態に過ぎないことになります。
 その証拠に、第1巻『涼宮ハルヒの憂鬱』で、キョンの命を狙って長門に阻止され砂となって消えた筈が、第9巻『‥‥の分裂』では再登場しています。つまり、コピー人格だから真の意味の死がなく、いくらでも再生できるのです。
 これに対し長門は、古泉君がどこかの巻でキョンに推測を述べているように、地球に複数送り込まれているという情報統合思念体の人型端末の中では、特別な存在なのです。
 つまり、ロボットのようなコミュ障状態から始めて、キョンら仲間たちとの交流を通じて感情を獲得し、しだいに成熟した人格を形成してゆくという、生きた実験室が長門有希なのです。」
 
 夢世界での変身対象は、必ずしも好意や共感の対象でなくても良いらしい。そもそも、私が夢の現象学研究を始めたきっかけでもある「元文化庁長官になる夢」からしてそうだった(渡辺、2016、pp.142-143)。むしろ、変身に好意や共感などのどんな動機も見つからないが故に、夢の意味の解釈を断念し、夢世界の原理の探求へと向かったのだと、いまさらながら思い合わせられる。
 それにしても、高知大学で映画製作のサークルをやっていて、次の場面ではサークルの仲間と共に列車に乗っていて、最後の場面では第二次大戦終結直後にナチス・ドイツから解放されたことになった男とは誰か。映画製作は、ハルヒシリーズでも秋の学園祭への出し物としてSOS団をあげてやっていた。けれども、もし、キョンならば隣席には長門がふさわしいはずだ。嬉しいはずなのに彼の方を見ないようにしているという設定も社交性機能を欠いた長門らしい。
 それなのに、いったいなぜ、コピー人格のはずの朝倉涼子なのか。
●●●【参考文献】『夢の現象学・入門』(渡辺恒夫著、講談社新書メチエ、2016)●●●

2018年11月19日 (月)

ハルヒ神学vs長門神学(1):涼宮ハルヒシリーズの結末を予想の巻/『春の夢』40年ぶりのポーの一族新作の巻

■今日から、新シリーズ「ハルヒ神学vs長門神学」を始めます。

 これまでの、「夢の現象学」「フッサール心理学」に続く3番目のシリーズとして、もっぱら映像メディア時評(マンガ、アニメ、映画など)、SFや古典文学などフィクション類の感想を徒然なるままに書き連ねてゆくことになる予定です。
 ちなみに、「ハルヒ」とは、2003年いらい、ラノベやアニメを中心にメディアミックスとして展開されている「涼宮ハルヒシリーズ」のメインヒロイン(画像では左の隅で「団長」の腕章をして立っている)。「長門」とは同じくセカンドヒロインの長門有希のことで、画像のようなルックスで無口キャラの文芸部員ですが、その正体は銀河を統括する情報統合思念体の対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド型インターフェース(笑)。

Nagatoharuhi

 「ハルヒ神学vs長門神学」とは、『エンドレスエイトの驚愕:ハルヒ@人間原理』(春秋社、2018)の著者であり、一緒に「人文死生学研究会」をやっている三浦俊彦さんから、一度ハルヒネタで研究会をやらないかという思いつきを聞かされた時に、聖地(西宮市立中央図書館か?)で、番外編として開くならいいかも、と答えて提案しておいたテーマのことです。
 いままでのブログでも、ハルヒシリーズには、自我体験だの独我論的体験だの輪廻転生だのと、死生学的に関連のあるテーマが見え隠れしていることを指摘してきました。このほど、映像メディアやフクションの中に現れたそういったテーマを専門に論じる場として、 新シリーズ「ハルヒ神学vs長門神学」を独立させたものです。
 今回は初回のこととて、そういった少しばかり難しい話は避けて、ハルヒシリーズの結末が見えてきた、という話題から入ります。
■ハルヒシリーズの結末が見えてきた!
 7年ぶりに発表されたハルヒ新作(『ザ・スニーカー Legend』角川書店、2018、所載)ですが、一読して私はハルヒシリーズの結末がそろそろ見えて来た、と思ったものです。
 ファンの間では結末はキョン(=語り手の男子高校生)の夢だったという夢落ち説があるということですが、私の推測もそれに近い。
 1年足らずで朝比奈さん(=未来人の少女)は卒業する。つまり未来に帰ってしまいます。そこでハルヒは欠員を募集する。それに乗じて乗り込んでくるのが敵性宇宙人九曜の変装した姿。
 長門だけは正体を見破りハルヒを護ろうとするが、殆ど人間に近付いた今の力では相討ちが精いっぱい。つまり、長門有希はここで死ぬのです。死ぬことによって人間になったことを証明するのです。今までのブログにも書きましたが、それが彼女の不可避の運命なのです。
 朝比奈さんもいなくなったし、古泉君(=超能力少年)もまた転校して行くし、SOS団は解散します。ハルヒとキョンはあと1年の高校生活を、もっぱら受験勉強に充てて過ごし、無事、同じ大学への進学を決めます。
 同時にキョンは、とんでもないことに気がつくのです。2年間にわたって宇宙人と未来人と超能力者と遊んだことに、ハルヒはとうとう気づかなかった。それどころか自分以外は誰も知らないのです。自分の思い出以外に、長門が宇宙人で朝比奈さんが未来人で古泉君が超能力者だったという客観的証拠が何もないのですから。
 ここに至ってキョンは、異世界人とは自分のことだったと気づきます。自分だけが他の誰とも異なる記憶を持っているのですから。
 キョンは、「消失世界」で、大人版朝比奈さんに、姉のような女教師のような慈しみある目を向けられつつ言われたことばーー「いつかあなたは高校時代を懐かしく思い出すことでしょう」をかみしめます。確かに懐かしい。しかも自分の思い出は、他者と共有不可能な、自分だけのものなのですから、いっそうかけがえがない。
 その意味でこの思い出は、夢に似ているのです。
 どうかこんなアホな結末を、作者が実行に移さないように!
(註)この一文は「アドホック日記」(三浦俊彦主宰)に載せた文章のほぼ再録です
https://green.ap.teacup.com/miurat/5653.html#comment65194
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■『春の夢』(萩尾望都)ーー40年ぶりの「ポーの一族」シリーズ新作を読むの巻
 夜遅く、世田谷のツタヤで『長門有希ちゃんの消失』(涼宮ハルヒシリーズのスピンオフ)DVDを借りようとしたら、ちょうど未見の5巻目以降がごっそり借り出し中になっていました。これも元はと言えば三浦さんの薦めで見始めたのですが、ラブコメのはずなのに切なくなってきてしまう。「ありがとう、だいすき」というエンディングテーマソングの題名からして切ないし。
 だからぜひ続きが見たかったのですが、貸し出し中なら仕方がない。ぼんやりと視線をそこここの棚にさまよわせているうちに、『春の夢ーー萩尾望都作、ポーの一族40年ぶり新作』という背表紙が目にとまりました。
 あの、伝説の『ポーの一族』に40年ぶりの新作だって?さっそく借り出して読んで、そして、期待たがわぬ感動に浸ったのです。
 物語りは相変わらず繊細で複雑なので、ここで要約はできません。第二次大戦末期のイギリスはウェールズの片田舎の館に避難して来たポーツネル男爵ことエドガーと、僚友のアラン。隣の館には、ドイツから亡命してきたユダヤ系の姉と弟。弟は音楽が得意でシューベルトの「春の夢」をドイツ語で歌うのですが、姉も、また保護者となっているイギリス人一家も、迫害者の国の歌なんて、敵国の歌なんてと、いい顔をしません。それでもひょんなことから弟はエドガーの館に行くようになってエドガーのピアノ伴奏で歌うようになります。やがて姉も ‥‥。
 そのうちに、色々不幸な事件が重なって、姉は16歳で死んでしまいます。でも、死ぬ間際にエドガーは自分の血を少女に分かち与えるのです。それによって少女は不死の吸血鬼一族に迎え入れられ、いつ目覚めるともない長い眠りに入るのです。
 繊細で美しい物語を読み終わって、私は、不死人であるエドガーとアランが、今でも世界のどこかの片隅にひっそりと生きているようなふしぎな感覚にとらえられました。
 そう、この感覚は、ハルヒシリーズにどっぷり浸っていると、ハルヒ団長を先頭としたSOS団の面々が、そこらの高校生に交じって普通に歩いているような錯覚に陥るのと、共通しています。いいえ、ただの錯覚ではありません。とりわけ私には、無口な読書少女で実は宇宙人が地球に送り込んだ有機アンドロイドという設定の長門有希には、どうしても既視感を覚えてしまうのです。
 次回から、この既視感を暴くために、「長門神学」を展開することにします。
 
■付記 ハルヒシリーズファンにそっと秘密ネタを教えます‥‥
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 今度会った時にでも、2003年ごろに涼宮ハルヒと古泉一樹という生徒が在籍していなかったか、尋ねてみるつもりです。
 もし在籍していたら、この現実世界とは「消失世界」であり、長門有希は世界を改変したのではなく元に戻したのであり、ハルヒの力によって宇宙人製有機アンドロイドにされていた自分を、元の人間に戻したのだという、「長門戻った説」(三浦、2018、p.161)が正しいことになるのです!?
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2018年11月13日 (火)

夢の現象学(151):またしてもハルヒ、というか長門物語に関係ある夢の巻

■2018年11月12日。

 夢を見た。スマホに打ち込もうとした時にはすでに、きわめてぼんやりしてしまっていた。
それでも、メモには10行ほど残っているので、それを手掛かりにして再構成してみる。
 「長門ss一人称語り」
とまず、メモにはある。
 これは、昨夜遅くまで、涼宮ハルヒシリーズのキャラで情報統合思念体によって地上に送り込まれた対人接触用人型端末である長門有希の一人称語りの形式をとった二次創作(=ss)を、インターネット上で読みふけっていたことに関係がある。
 つまり、長門ss一人称語りを読んでいたという夢だったのだ。次に、
 「兄が一人暮らし」
 後で出てくるように、この夢の中では兄がマンションで一人暮らしをしていることになっている(事実ではない)。これは、長門がマンションに一人暮らしをしていることと符合する。
 「母がオカズを持っていくのに同行」
 昨夜読みふけった長門ssでは、長門有希は雪の舞う日に無人の公園に出現して以来、北高に入学してハルヒやキョンたちと文芸部室でまみえるまでの3年間を、マンションの一室でどうやって過ごしていたかが、長門の一人称で語られている。数か月早く送られて同じマンションの別のフロアに住んでいた朝倉涼子から「人間の食べ物」を振る舞われ、料理を習ったりしていたのだ:。関係がありそうではないか。
 ちなみに母は故人。
  「高知仁井田あたりの夢でよく出てくる道
 バスを降りて母が道なき道を指し示す。「ここから行くと近い」と言いながら」
 高知大学に勤めていた頃、仁井田という海に近い辺鄙な地にある公務員宿舎に住んでいた。そのあたりの地形が時々、ゆがめられた形で夢に出てくる。
 「兄のマンションに着く。
 その部屋で、母と、持参のお赤飯を食べる。
 極めてぼんやりした夢」
■と、メモ書きの最後に書いたように、ほんとにぼんやりした夢で、ブログに載せる価値もないかもしれない。
 けれども、長門の物語(ss:二次創作)をインターネット上で読んでいたという夢の設定が珍しいから、載せておく。
 寝るまえに読みふけっていたという長門ssとは、「機械知性体たちの輪舞曲」(作、輪舞の人)というもので、2007年から連載が続いている、驚くべき力作だ。
 第一回の「わたしが生まれた日」は、『涼宮ハルヒの憤慨』に出てきた、文芸部機関誌掲載の長門の幻想ホラー「無題」(鬼気迫る傑作!)を下敷きに、雪の舞う公園で生み出され、自分に「ゆき」と名づけることで情報統合思念体から分離して個体性を獲得し、住居として指定されていた高級マンションの7階にたどり着くまでの彼女の心象風景を描き出している。以降、連載は20回を超える。3年後の北高入学の日のクラスでの自己紹介のトンデモぶり。ただ一人の文芸部員として窓辺で読書しながらハルヒとキョンを待つ日々(画像は文芸部室で読書する長門有希)。朝倉涼子との不和と戦闘。SOS団の活動の中で目覚める感情、それがキョンへの恋心とハルヒへの嫉妬心の芽生えとなってゆき、12月18日の世界改変へと抗いようもなく流されてゆく。

 まさに私の読みたかった、長門一人称物語だ。

Nagatoyuki_bungeibu

 彼女の対人コミュニケーション機能未設定の意義についても同感した。できあいの社交性のコピーではなく、ゼロから自力で次第しだいに開発することこそが、他の同様の人型端末には無い、自分に与えられた唯一独自の使命なのだった。
 ここで、来年3月に『質的心理学研究』に掲載予定の拙論(「コミュ障の批判的ナラティヴ現象学」)に引き付けていうと
 <この項未完>
■付記 ハルヒシリーズファンにそっと秘密ネタを教えます‥‥
 下記の『人文死生学宣言』という本の執筆陣には、「消失世界」で涼宮ハルヒと古泉君が進学した高校のモデルとなった学校の先生が加わっています。
 今度会った時にでも、2003年ごろに涼宮ハルヒと古泉一樹という生徒が在籍していなかったか、尋ねてみるつもりです。
 もし在籍していたら、この現実世界とは「消失世界」であり、長門有希は世界を改変したのではなく元に戻したのであり、ハルヒの力によって宇宙人製有機アンドロイドにされていた自分を、元の人間に戻したのだという、「長門戻った説」(三浦、2018、p.161)が正しいことになるのです!?
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2018年11月10日 (土)

フッサール心理学(53):長門有希は輪廻転生の夢を見るか

■見えてきた!長門有希の避けられない運命......

 ブログの5つ前の記事「フッサール心理学(50)」で私は、こう書きました。

「ロボットのようなコミュ障状態から始めて、キョンら仲間たちとの交流を通じて感情を獲得し、しだいに成熟した人格を形成してゆくという、生きた実験室が長門有希なのです。そして、もしこの実験が成功すれば、それが情報統合思念体にとって、新たなる自律進化への可能性を拓くことになるのではないでしょうか。」

 ところが、よく考えれば、ここには長門の悲壮な運命が暗示されているように思われます。それに気づいたのは、『涼宮ハルヒの消失 公式ガイドブック』中の演出家座談会で、次のくだりを読んだ時の事です。

-------------------------
石原(立也) 今回の『消失』は、新しい長門が生まれる話だと思うんです。長門が成長していくことで、普通の人間に近付いていく。もしかしたら、進化の袋小路にぶつかった情報統合思念体が探している進化の可能性って、人間になることじゃないかな。まあ、原作者の谷川流さんに確認していない、僕の想像ですが。

高雄(統子) 石原さんがおっしゃったように、長門は情報統合思念体のヒューマノイド・インターフェースだから永続性があるはずなんです。でも、ただの女の子になることは、その永続性のサイクルから抜け出すという意味でもあるわけで、彼女が死を獲得するということだと思うんです。

石原  すごいことを言うね。(p.109)
----------------------------

 そう。長門は死を獲得する。でも、不死のはずのヒューマノイド・インターフェースが本当にただの女の子になったかどうかを自他ともに確認するには、実際に死ぬことしかないのではないでしょうか。ここで私はどうしても、キョンとハルヒの成長物語という幹(=メインテーマ)に絡み付いたアンドロイドの自我の目覚めというサブテーマの結末は、彼女の死しかありえないと思われてくるのです。

 長門よ、キミにハッピーエンドは似合わない。

 想像は容易です。長門はキョンとハルヒを、敵性宇宙人九曜の魔手から守って、自己犠牲的な死を遂げるのです。それによって人間になったことの証しを立てるのです(画像は敵性宇宙人九曜の攻撃で病に倒れた長門有希。『涼宮ハルヒの驚愕(前)』(角川書店、2010、p.17)より)。

Haruhi_kyogaku_nagato_0810

 でも、それでは自律進化は始まりません。進化は遺伝子を残さないことには生じません。しかも、彼女が「色のない世界で見つけた You are star」(長門有希キャラソン『雪、無音、窓辺にて』)とまで歌い上げたキョン以外に愛の相手はありえなかったのです。ところが、キョン(=王子様)の心はすでにハルヒ(=人間の王女様)のものでした。元アンドロイドではかないっこなかったのです。

 このジレンマを、けれども、銀河を統括する情報統合思念体は、もうひとつの方法で打開します。そう、生物学的に個体が滅んで遺伝子を残すだけが自律進化の手段ではありません。もう一つの手段があります。それは‥‥

 輪廻転生することです。

●<とりあえずパソコンを閉じて寝ます。この巻続く 乞う、ご期待!>●

 

■付記 ハルヒシリーズファンにそっと秘密ネタを教えます‥‥

 下記の『人文死生学宣言』という本の執筆陣には、「消失世界」で涼宮ハルヒと古泉君が進学した高校のモデルとなった学校の先生が加わっています。
 今度会った時にでも、2003年ごろに涼宮ハルヒと古泉一樹という生徒が在籍していなかったか、尋ねてみるつもりです。
 もし在籍していたら、この現実世界とは「消失世界」であり、長門有希は世界を改変したのではなく元に戻したのであり、ハルヒの力によって宇宙人製有機アンドロイドにされていた自分を、元の人間に戻したのだという、「長門戻った説」(三浦、2018、p.161)が正しいことになるのです!?
●●●『人文死生学宣言:私の死の謎』(渡辺恒夫・三浦俊彦・新山喜嗣/編、春秋社、2017)好評発売中●●●

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