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2018年11月の記事

2018年11月27日 (火)

ハルヒ神学vs.長門神学(2):長門詩篇Ⅰ「わたしがこの惑星に舞い降りた夜」

■長門有希詩篇Ⅰ「わたしがこの惑星に舞い降りた夜」
 
 銀河の彼方にいたときのことは憶えていない
 わたしがわたしになったのは、白い水の結晶が舞い落ちる夜
 あとからあとから舞い落ちる、この惑星の奇蹟のひとつ
 ーユキっていうのよー
 誰かが、わたしの中でささやく
 ユキ‥‥ゆき‥‥雪
 この星に有り余る元素から構成されたばかりの舌という器官の上で
 わたしはこの語をころがし
 インストールされたばかりの脳内日本語辞書で変換する。
 雪‥‥ユキ‥‥由紀‥‥有紀‥‥
 有希‥‥この文字まできて、何か前方がパッと開けるような感覚があった。
 日本語辞書を脳内にさらに繰る。
 希(のぞ)みが有(あ)る‥‥
 のぞみって、なに?もどかしく自分の内側に問う。
 分からない。でも、この文字は、この名は
 この惑星の♀型有機知性体に多い名前
 目立たない方がいい。わたしの任務は観測だから
 これを自分の名前にしよう。
   ***

Nagatoyuki わたしはおもむろに歩き出す。
 コツ、コツ、コツ‥‥
 靴底から伝わるタイルの固さが全身を突き上げる。
 でも、どこへ?
 ザッ、ザッ、ザッ‥‥
 異質的な靴音が鼓膜に振動を届ける。
 暗い公園を見回す。
 人型の影が近づく。
 身長175cm。わたしよりちょうど頭一つ高い。
 横幅も広い。体重78kg
 ♂型有機知性体‥‥
 いいえ、そう言ってはいけない。私は有希という人間になったのだから。
 「男が近づく」と言わなければ。
 そしてわたしは少女。少女としてのこの場の適切な反応はなに?

 「ネエチャン、風邪引くよオ」
 大きな声が鼓膜を振動させる。
 警戒信号(第3度)発令。
 わたしの視線が体内装備型赤外線スコープとともに、
 男の顔をとらえる。
 男の視線がわたしの胸に注がれる。
 つられて思わず自分の膨らんだ胸に視線を落とす。
 「セーラー服。北高生じゃないか」
 男の視線がさらに下へと移動し、
 その目に粘っこい白い光がたたえられる。
 全身の肌に粟粒が生じる感覚。
 脳内(感覚→日本語)変換辞書発動
 ‥オ・ゾ・マ・シ・イ‥ 
 警戒信号が第2度に高まる。
 「どう、オジサンと遊ばない?お小遣いあげるよ」
 ハァ、ハァと荒い息が耳にかかる。
 警戒信号第1度。防御反応準備ーー
 男の手が体に触れる寸前に、片足を蹴り出す。
 「ギャッ」という声を残し、男の体は雪舞う夜空に放物線を描き、
 公園の反対側のひときわ高い樹影の先端にひっかかる。
 バキバキバキと音立てて地面に落下。
 赤外線スコープを使って情報を解析する。
 動きはない。けれど生体反応は正常。

 そのときーー
 コツ、コツ、コツ‥‥
 先ほどから微かに聞こえていた
 靴音が背後に近づいて止まる。
 「そんなことしては駄目よーー」
 振り向くと、わたしと同じ年頃の少女が立っている。
 身長160cm。わたしより少し高い。
 「この星で女の子でいることにはリスクがある。けれど、うまくやればそれを上回るメリットがあるわ」
 「あなたは‥‥」
 「あたしの名は朝倉涼子。あなたと同じ。情報統合思念体によってこの惑星に送り込まれた、対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェース」
 それから付け加えた。「そしてあなたのバックアップ」
 「知らなかった。わたしにバックアップがあったなんて」
 「まったくもう、あたしより2ランクは高性能のインターフェースだって聞いていたのに」
 そして、わたしの全身をまじまじと眺め、付け加える。
 「それに、この寒いのにセーラー服一枚だなんて」
 寒いって?
 そういえば先刻から、下肢のむき出しの部分に
 無数の針でチクチク刺されるような感覚。
 別に回避反応を要するほどではないのだけれど。
 脳内(感覚→日本語)変換辞書発動。
 ‥刺すような寒気‥
 朝倉涼子はこの星の言葉で「コート」と呼ばれる長い服をまとい、
 マフラーと呼ばれる布切れを首に巻いている。
 「おまけにもう、北高の制服。入学は三年も後のことだというのに。あなたを送り込んだ情報統合思念体主流派さんは、いったい何を考えてるのかしら」
 そして、私のからだに観察するような視線を注ぎーー「まさかね、有機体構成時にバグが発生したなんてね」

 ピーポーピーポー
 闇の中を近づいてくる音。私の中で警戒信号第3度が立ち上がりーー
 「救急車が来る。ここにいてはいけないわ」
 「でも、どこへ」
 「あたしたちの秘密基地。高級マンションとこの惑星では、この地域では言ってるわ」
 くるりと背を向けて足早に歩みだす、彼女のあとを追う。
 コツコツ、コツコツ、と、二組の靴音を闇に響かせながら。
 聴覚感度を高めると、街中の靴音がワッと押し寄せて来てーー
 コツコツ響く音が♀型、じゃなかった女の、
 ザッザッという音が♂型、じゃなかった男の靴音と、
 たった今、わたしは学んだ‥‥
 この惑星で、とくに夜の公園のようなところに
 少女としてひとりいることの危険も。
 でも、うまくやればそれを上回るメリットがあるって、何?
 樹のてっぺんまで蹴り上げるのよりうまいやりかたって‥‥
 あとで、彼女に聞いておかなければ‥‥
 わたしは無言のまま、朝倉涼子のすらりとした後ろ姿にしたがう。
 やがて闇の中から光輝く巨大な建築が姿をあらわす。

 それが、この惑星に舞い降りた、初めての夜の記憶。
 桜の開花を前に季節外れの雪の舞った日だったと、
 あとから聞いた。
 銀河の彼方にいたときのことは、もう憶えていない。

 (原作: Yuki Nagato /脳内口述筆記: Tsuneo Watanabe)

●口述筆記者註:これは、長門ss(二次創作)と呼ばれるジャンルであって、「涼宮ハルヒシリーズ」に属する原作小説やアニメやマンガや音楽、画像などありとあらゆる材料の無断借用の上に成り立っています。それがssというジャンルの特性なので、別に弁解しようとも思いません。ただし、同じ長門ssの傑作である『機械知性体たちの輪舞曲』(作:輪舞の人)にだけは、感謝の意を表しておきます。原作者以上に長門を深く理解しているとまで一部で評されるこの怪作を読むことがなかったなら、本詩篇も書かれることはなかったでしょう。
 今後は続篇を書き継ぐべく努めると同時に、書いた分の推敲も進めてゆく所存なので、よかったらご意見をお寄せ下さい。
 なお、本篇開始に合わせて、ブログの「プロフィール」の「一行自己紹介」も手直しして8行まで増幅して置いたので、よっぽど暇な方は御改め下さい。●

■付記 ハルヒシリーズファンにそっと秘密ネタを教えます‥‥

 下記の『人文死生学宣言』という本の執筆陣には、「消失世界」で涼宮ハルヒと古泉君が進学した高校のモデルとなった学校の先生が加わっています。
 今度会った時にでも、2003年ごろに涼宮ハルヒと古泉一樹という生徒が在籍していなかったか、尋ねてみるつもりです。
 もし在籍していたら、この現実世界とは「消失世界」であり、長門有希は世界を改変したのではなく元に戻したのであり、ハルヒの力によって宇宙人製有機アンドロイドにされていた自分を、元の人間に戻したのだという、「長門戻った説」(三浦、2018、p.161)が正しいことになるのです!?
●●●『人文死生学宣言:私の死の謎』(渡辺恒夫・三浦俊彦・新山喜嗣/編、春秋社、2017)好評発売中●●●

 
 

 

 

 

 

2018年11月26日 (月)

夢の現象学(153):沖縄で見た夢と質的心理学会での人文死生学シンポジウムの巻/「長門詩篇」の構想の巻

■2018年11月25日。早朝。沖縄は名護市の名桜大学前のホテルで見た夢。

 池の傍のコンクリの上で、蜥蜴かあるいは赤ん坊恐竜が、飛ぶハエを捕まえるのを見た。
 一瞬後には、両者ともいない。ハエがマイクロ恐竜に咥えられながら、飛んでいったのかな。
 それまで、夢の中かもしくは半睡状態で考えていた、「長門詩篇」のプランに関係があるような気がするーーと、スマホにはメモ書きしたのだが、内容的には余り関係がないような。
■一昨日から私としては初めての沖縄入りをして、昨日は名桜大学での質的心理学大会に参加し、「精神医学と現象学的心理学から死と他者の形而上学へ(第2報)ーー『人文死生学宣言』の誕生」という長い題のシンポジウムを打った。
 このシンポジウムのことは、「人文死生学研究会番外編」として研究会サイトにも載せておいたから、リンクを貼っておく。3年前の仙台学会での「第一報」よりは盛況だったと思う。学会のリーダー的存在であるやまだようこさんに、指定討論者になってもらった効果もあったのだろう。やまださんと、話題提供者の一人三浦俊彦さんとの、白熱の議論が始まったところで、時間切れになってしまったのは残念だったが。
 懇親会の後、二次会では三浦さんとそのつながりの、一回り若い二人と同席した。
 ひとりは、琉球大で哲学をやっている、吉満さんというデーヴィット・ルイスの訳者として知られた方。もう一人は山下さんという、アカデミシャンでなくゲームソフト開発会社にいるという人。
 当然ながら、話はハルヒシリーズのことになった。イラスト担当のいとうのいじさん(女性)が就職したゲーム会社が、実はエロゲー会社だったという(私としては『涼宮ハルヒの観測』で仕入れたばかりの)裏話も、当然のことのようにみなさん知っていた。
 そのうちこれも当然のように、話は長門論に流れていった。
 ホテルに戻ってベッドにもぐりこんでからも、長門のことを考えていた。いままで「コミュ障の現象学から見た長門有希」だの「長門有希は輪廻転生の夢を見るか」だのといった論説的な記事を書きかけたが、どうも続かない。
 いっそ、長門詩篇としたらどうだろうか。といったことを、夢うつつでも考えていたような気がする。その後、実際に(多分レム睡眠に入って)見た、上記のマイクロ恐竜とハエの夢とは、内容は関係はなさそうなのに、夢うつつから夢へと移行したために、関係があるような気がしたのかもしれない。
 長門詩篇とは、たとえばこんな具合に始まる。
■長門詩篇(1)わたしがこの惑星に舞い降りた夜
 
 銀河の彼方にいたときのことは憶えていない
 わたしがわたしになったのは、白い水の結晶が舞い落ちる夜
 あとからあとから舞い落ちる、この惑星の奇蹟のひとつ
 ーーユキっていうのよーー
 誰かがわたしの中でささやく
 ユキ‥‥ゆき‥‥雪
 この星に有り余る元素から構成されたばかりの舌という器官の上で
 わたしはこの語をころがし
 インストールされたばかりの脳内辞書で変換する。
 雪‥‥ユキ‥‥有希
 この惑星の♀型有機知性体に多い名前
 目立たない方がいい。わたしの任務は観測だから
 これを自分の名前にしよう。

  わたしはおもむろに歩き出す。
 でも、どこへ?
 わたしの任務はこの星での個体識別名涼宮ハルヒの観測のはず。
 暗い公園を見回す。影が近づく。
 背がわたしより頭ふたつ分高い。
 ♂型有機知性体‥‥警戒信号(第3度)がわたしの中で発せられる。
 いえ、こう言ってはいけない。私は有希という人間になったのだから。
 「男が近づく」、と言わなければ。そしてわたしは少女。少女としてのこの場の適切な反応はなに?
 「ネエチャン、風邪引くよオ」
 大きな声が鼓膜を振動させる。警戒信号が第2度に切り変わる。

<続きは家に帰ってから、というより最初から書き直し、「ハルヒ神学vs.長門神学」内の連載としてアップロードします。乞うご期待!>

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■付記 ハルヒシリーズファンにそっと秘密ネタを教えます‥‥

 下記の『人文死生学宣言』という本の執筆陣には、「消失世界」で涼宮ハルヒと古泉君が進学した高校のモデルとなった学校の先生が加わっています。
 今度会った時にでも、2003年ごろに涼宮ハルヒと古泉一樹という生徒が在籍していなかったか、尋ねてみるつもりです。
 もし在籍していたら、この現実世界とは「消失世界」であり、長門有希は世界を改変したのではなく元に戻したのであり、ハルヒの力によって宇宙人製有機アンドロイドにされていた自分を、元の人間に戻したのだという、「長門戻った説」(三浦、2018、p.161)が正しいことになるのです!?
●●●『人文死生学宣言:私の死の謎』(渡辺恒夫・三浦俊彦・新山喜嗣/編、春秋社、2017)好評発売中●●●

2018年11月21日 (水)

夢の現象学(152):『春の夢』(ポーの一族新作)の世界にハルヒシリーズのキャラとして登場したの巻

■2018年11月20日明け方。夢を見た。最後の場面では高知からの列車に乗っていた。
 第二次世界大戦が終わった直後ということになっていて、隣にはナチスに10年捕らえられていて無事帰還したばかりの男性が乗っていた。
 私は「朝倉涼子」(涼宮ハルヒシリーズのキャラで、長門有希とは別の宇宙人製有機アンドロイド)になっていた。男性とはなじみゆえ嬉しいはずだったが、なぜか二人の間はギクシャクとしていて、私はなるべく彼の方を見ないようにしていた。
 この辺で目が覚めたが、その前のエピソードが思い出せる。かつて私が勤めていた高知大学でこの男性のサークルが映画を作っているのだった。
 このエピソードの一部かもしれないが、高知駅近くで、列車が通過するのをやや高い処から見ている場面が思い出される。列車には、映画製作活動に関係のある男たちが乗っていて、私はこの活動から疎外されているという感覚があったような。その時はまだ「朝倉涼子」には成っていなくて、普通に自分だったような。
■二日前に読んだ『春の夢』(ポーの一族新作、萩尾望都)の舞台設定に、最近頭を占めているハルヒシリーズのキャラとして登場した夢だった。
 それにしても、長門でもキョンでもなく、そもそもSOS団でもない朝倉涼子とは意外すぎた。
 朝倉涼子については、8つ前の記事《フッサール心理学(50)》にこう書いただけにーー 
「朝倉涼子が最初から「明るくて社交的」に設定されることが可能だったのは、誰か実在の地球人の娘の性格をそっくりコピーして来たからでしょう。ということは、彼女には真の人格は不在であって、その喜怒哀楽も擬態に過ぎないことになります。
 その証拠に、第1巻『涼宮ハルヒの憂鬱』で、キョンの命を狙って長門に阻止され砂となって消えた筈が、第9巻『‥‥の分裂』では再登場しています。つまり、コピー人格だから真の意味の死がなく、いくらでも再生できるのです。
 これに対し長門は、古泉君がどこかの巻でキョンに推測を述べているように、地球に複数送り込まれているという情報統合思念体の人型端末の中では、特別な存在なのです。
 つまり、ロボットのようなコミュ障状態から始めて、キョンら仲間たちとの交流を通じて感情を獲得し、しだいに成熟した人格を形成してゆくという、生きた実験室が長門有希なのです。」
 
 夢世界での変身対象は、必ずしも好意や共感の対象でなくても良いらしい。そもそも、私が夢の現象学研究を始めたきっかけでもある「元文化庁長官になる夢」からしてそうだった(渡辺、2016、pp.142-143)。むしろ、変身に好意や共感などのどんな動機も見つからないが故に、夢の意味の解釈を断念し、夢世界の原理の探求へと向かったのだと、いまさらながら思い合わせられる。
 それにしても、高知大学で映画製作のサークルをやっていて、次の場面ではサークルの仲間と共に列車に乗っていて、最後の場面では第二次大戦終結直後にナチス・ドイツから解放されたことになった男とは誰か。映画製作は、ハルヒシリーズでも秋の学園祭への出し物としてSOS団をあげてやっていた。けれども、もし、キョンならば隣席には長門がふさわしいはずだ。嬉しいはずなのに彼の方を見ないようにしているという設定も社交性機能を欠いた長門らしい。
 それなのに、いったいなぜ、コピー人格のはずの朝倉涼子なのか。
●●●【参考文献】『夢の現象学・入門』(渡辺恒夫著、講談社新書メチエ、2016)●●●

2018年11月19日 (月)

ハルヒ神学vs長門神学(1):涼宮ハルヒシリーズの結末を予想の巻/『春の夢』40年ぶりのポーの一族新作の巻

■今日から、新シリーズ「ハルヒ神学vs長門神学」を始めます。

 これまでの、「夢の現象学」「フッサール心理学」に続く3番目のシリーズとして、もっぱら映像メディア時評(マンガ、アニメ、映画など)、SFや古典文学などフィクション類の感想を徒然なるままに書き連ねてゆくことになる予定です。
 ちなみに、「ハルヒ」とは、2003年いらい、ラノベやアニメを中心にメディアミックスとして展開されている「涼宮ハルヒシリーズ」のメインヒロイン(画像では左の隅で「団長」の腕章をして立っている)。「長門」とは同じくセカンドヒロインの長門有希のことで、画像のようなルックスで無口キャラの文芸部員ですが、その正体は銀河を統括する情報統合思念体の対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド型インターフェース(笑)。

Nagatoharuhi

 「ハルヒ神学vs長門神学」とは、『エンドレスエイトの驚愕:ハルヒ@人間原理』(春秋社、2018)の著者であり、一緒に「人文死生学研究会」をやっている三浦俊彦さんから、一度ハルヒネタで研究会をやらないかという思いつきを聞かされた時に、聖地(西宮市立中央図書館か?)で、番外編として開くならいいかも、と答えて提案しておいたテーマのことです。
 いままでのブログでも、ハルヒシリーズには、自我体験だの独我論的体験だの輪廻転生だのと、死生学的に関連のあるテーマが見え隠れしていることを指摘してきました。このほど、映像メディアやフクションの中に現れたそういったテーマを専門に論じる場として、 新シリーズ「ハルヒ神学vs長門神学」を独立させたものです。
 今回は初回のこととて、そういった少しばかり難しい話は避けて、ハルヒシリーズの結末が見えてきた、という話題から入ります。
■ハルヒシリーズの結末が見えてきた!
 7年ぶりに発表されたハルヒ新作(『ザ・スニーカー Legend』角川書店、2018、所載)ですが、一読して私はハルヒシリーズの結末がそろそろ見えて来た、と思ったものです。
 ファンの間では結末はキョン(=語り手の男子高校生)の夢だったという夢落ち説があるということですが、私の推測もそれに近い。
 1年足らずで朝比奈さん(=未来人の少女)は卒業する。つまり未来に帰ってしまいます。そこでハルヒは欠員を募集する。それに乗じて乗り込んでくるのが敵性宇宙人九曜の変装した姿。
 長門だけは正体を見破りハルヒを護ろうとするが、殆ど人間に近付いた今の力では相討ちが精いっぱい。つまり、長門有希はここで死ぬのです。死ぬことによって人間になったことを証明するのです。今までのブログにも書きましたが、それが彼女の不可避の運命なのです。
 朝比奈さんもいなくなったし、古泉君(=超能力少年)もまた転校して行くし、SOS団は解散します。ハルヒとキョンはあと1年の高校生活を、もっぱら受験勉強に充てて過ごし、無事、同じ大学への進学を決めます。
 同時にキョンは、とんでもないことに気がつくのです。2年間にわたって宇宙人と未来人と超能力者と遊んだことに、ハルヒはとうとう気づかなかった。それどころか自分以外は誰も知らないのです。自分の思い出以外に、長門が宇宙人で朝比奈さんが未来人で古泉君が超能力者だったという客観的証拠が何もないのですから。
 ここに至ってキョンは、異世界人とは自分のことだったと気づきます。自分だけが他の誰とも異なる記憶を持っているのですから。
 キョンは、「消失世界」で、大人版朝比奈さんに、姉のような女教師のような慈しみある目を向けられつつ言われたことばーー「いつかあなたは高校時代を懐かしく思い出すことでしょう」をかみしめます。確かに懐かしい。しかも自分の思い出は、他者と共有不可能な、自分だけのものなのですから、いっそうかけがえがない。
 その意味でこの思い出は、夢に似ているのです。
 どうかこんなアホな結末を、作者が実行に移さないように!
(註)この一文は「アドホック日記」(三浦俊彦主宰)に載せた文章のほぼ再録です
https://green.ap.teacup.com/miurat/5653.html#comment65194
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■『春の夢』(萩尾望都)ーー40年ぶりの「ポーの一族」シリーズ新作を読むの巻
 夜遅く、世田谷のツタヤで『長門有希ちゃんの消失』(涼宮ハルヒシリーズのスピンオフ)DVDを借りようとしたら、ちょうど未見の5巻目以降がごっそり借り出し中になっていました。これも元はと言えば三浦さんの薦めで見始めたのですが、ラブコメのはずなのに切なくなってきてしまう。「ありがとう、だいすき」というエンディングテーマソングの題名からして切ないし。
 だからぜひ続きが見たかったのですが、貸し出し中なら仕方がない。ぼんやりと視線をそこここの棚にさまよわせているうちに、『春の夢ーー萩尾望都作、ポーの一族40年ぶり新作』という背表紙が目にとまりました。
 あの、伝説の『ポーの一族』に40年ぶりの新作だって?さっそく借り出して読んで、そして、期待たがわぬ感動に浸ったのです。
 物語りは相変わらず繊細で複雑なので、ここで要約はできません。第二次大戦末期のイギリスはウェールズの片田舎の館に避難して来たポーツネル男爵ことエドガーと、僚友のアラン。隣の館には、ドイツから亡命してきたユダヤ系の姉と弟。弟は音楽が得意でシューベルトの「春の夢」をドイツ語で歌うのですが、姉も、また保護者となっているイギリス人一家も、迫害者の国の歌なんて、敵国の歌なんてと、いい顔をしません。それでもひょんなことから弟はエドガーの館に行くようになってエドガーのピアノ伴奏で歌うようになります。やがて姉も ‥‥。
 そのうちに、色々不幸な事件が重なって、姉は16歳で死んでしまいます。でも、死ぬ間際にエドガーは自分の血を少女に分かち与えるのです。それによって少女は不死の吸血鬼一族に迎え入れられ、いつ目覚めるともない長い眠りに入るのです。
 繊細で美しい物語を読み終わって、私は、不死人であるエドガーとアランが、今でも世界のどこかの片隅にひっそりと生きているようなふしぎな感覚にとらえられました。
 そう、この感覚は、ハルヒシリーズにどっぷり浸っていると、ハルヒ団長を先頭としたSOS団の面々が、そこらの高校生に交じって普通に歩いているような錯覚に陥るのと、共通しています。いいえ、ただの錯覚ではありません。とりわけ私には、無口な読書少女で実は宇宙人が地球に送り込んだ有機アンドロイドという設定の長門有希には、どうしても既視感を覚えてしまうのです。
 次回から、この既視感を暴くために、「長門神学」を展開することにします。
 
■付記 ハルヒシリーズファンにそっと秘密ネタを教えます‥‥
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 今度会った時にでも、2003年ごろに涼宮ハルヒと古泉一樹という生徒が在籍していなかったか、尋ねてみるつもりです。
 もし在籍していたら、この現実世界とは「消失世界」であり、長門有希は世界を改変したのではなく元に戻したのであり、ハルヒの力によって宇宙人製有機アンドロイドにされていた自分を、元の人間に戻したのだという、「長門戻った説」(三浦、2018、p.161)が正しいことになるのです!?
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2018年11月13日 (火)

夢の現象学(151):またしてもハルヒ、というか長門物語に関係ある夢の巻

■2018年11月12日。

 夢を見た。スマホに打ち込もうとした時にはすでに、きわめてぼんやりしてしまっていた。
それでも、メモには10行ほど残っているので、それを手掛かりにして再構成してみる。
 「長門ss一人称語り」
とまず、メモにはある。
 これは、昨夜遅くまで、涼宮ハルヒシリーズのキャラで情報統合思念体によって地上に送り込まれた対人接触用人型端末である長門有希の一人称語りの形式をとった二次創作(=ss)を、インターネット上で読みふけっていたことに関係がある。
 つまり、長門ss一人称語りを読んでいたという夢だったのだ。次に、
 「兄が一人暮らし」
 後で出てくるように、この夢の中では兄がマンションで一人暮らしをしていることになっている(事実ではない)。これは、長門がマンションに一人暮らしをしていることと符合する。
 「母がオカズを持っていくのに同行」
 昨夜読みふけった長門ssでは、長門有希は雪の舞う日に無人の公園に出現して以来、北高に入学してハルヒやキョンたちと文芸部室でまみえるまでの3年間を、マンションの一室でどうやって過ごしていたかが、長門の一人称で語られている。数か月早く送られて同じマンションの別のフロアに住んでいた朝倉涼子から「人間の食べ物」を振る舞われ、料理を習ったりしていたのだ:。関係がありそうではないか。
 ちなみに母は故人。
  「高知仁井田あたりの夢でよく出てくる道
 バスを降りて母が道なき道を指し示す。「ここから行くと近い」と言いながら」
 高知大学に勤めていた頃、仁井田という海に近い辺鄙な地にある公務員宿舎に住んでいた。そのあたりの地形が時々、ゆがめられた形で夢に出てくる。
 「兄のマンションに着く。
 その部屋で、母と、持参のお赤飯を食べる。
 極めてぼんやりした夢」
■と、メモ書きの最後に書いたように、ほんとにぼんやりした夢で、ブログに載せる価値もないかもしれない。
 けれども、長門の物語(ss:二次創作)をインターネット上で読んでいたという夢の設定が珍しいから、載せておく。
 寝るまえに読みふけっていたという長門ssとは、「機械知性たちの輪舞曲」(作、輪舞の人)というもので、2007年から連載が続いている、驚くべき力作だ。
 第一回の「わたしが生まれた日」は、『涼宮ハルヒの憤慨』に出てきた、文芸部機関誌掲載の長門の幻想ホラー「無題」(鬼気迫る傑作!)を下敷きに、雪の舞う公園で生み出され、自分に「ゆき」と名づけることで情報統合思念体から分離して個体性を獲得し、住居として指定されていた高級マンションの7階にたどり着くまでの彼女の心象風景を描き出している。以降、連載は20回を超える。3年後の北高入学の日のクラスでの自己紹介のトンデモぶり。ただ一人の文芸部員として窓辺で読書しながらハルヒとキョンを待つ日々(画像は文芸部室で読書する長門有希)。朝倉涼子との不和と戦闘。SOS団の活動の中で目覚める感情、それがキョンへの恋心とハルヒへの嫉妬心の芽生えとなってゆき、12月18日の世界改変へと抗いようもなく流されてゆく。

Nagatoyuki_bungeibu

 まさに私の読みたかった、長門一人称物語だ。

 彼女の対人コミュニケーション機能未設定の意義についても同感した。できあいの社交性のコピーではなく、ゼロから自力で次第しだいに開発することこそが、他の同様の人型端末には無い、自分に与えられた唯一独自の使命なのだった。
 ここで、来年3月に『質的心理学研究』に掲載予定の拙論(「コミュ障の批判的ナラティヴ現象学」)に引き付けていうと
 <この項未完>
■付記 ハルヒシリーズファンにそっと秘密ネタを教えます‥‥
 下記の『人文死生学宣言』という本の執筆陣には、「消失世界」で涼宮ハルヒと古泉君が進学した高校のモデルとなった学校の先生が加わっています。
 今度会った時にでも、2003年ごろに涼宮ハルヒと古泉一樹という生徒が在籍していなかったか、尋ねてみるつもりです。
 もし在籍していたら、この現実世界とは「消失世界」であり、長門有希は世界を改変したのではなく元に戻したのであり、ハルヒの力によって宇宙人製有機アンドロイドにされていた自分を、元の人間に戻したのだという、「長門戻った説」(三浦、2018、p.161)が正しいことになるのです!?
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2018年11月10日 (土)

フッサール心理学(53):長門有希は輪廻転生の夢を見るか

■見えてきた!長門有希の避けられない運命......

 ブログの5つ前の記事「フッサール心理学(50)」で私は、こう書きました。

「ロボットのようなコミュ障状態から始めて、キョンら仲間たちとの交流を通じて感情を獲得し、しだいに成熟した人格を形成してゆくという、生きた実験室が長門有希なのです。そして、もしこの実験が成功すれば、それが情報統合思念体にとって、新たなる自律進化への可能性を拓くことになるのではないでしょうか。」

 ところが、よく考えれば、ここには長門の悲壮な運命が暗示されているように思われます。それに気づいたのは、『涼宮ハルヒの消失 公式ガイドブック』中の演出家座談会で、次のくだりを読んだ時の事です。

-------------------------
石原(立也) 今回の『消失』は、新しい長門が生まれる話だと思うんです。長門が成長していくことで、普通の人間に近付いていく。もしかしたら、進化の袋小路にぶつかった情報統合思念体が探している進化の可能性って、人間になることじゃないかな。まあ、原作者の谷川流さんに確認していない、僕の想像ですが。

高雄(統子) 石原さんがおっしゃったように、長門は情報統合思念体のヒューマノイド・インターフェースだから永続性があるはずなんです。でも、ただの女の子になることは、その永続性のサイクルから抜け出すという意味でもあるわけで、彼女が死を獲得するということだと思うんです。

石原  すごいことを言うね。(p.109)
----------------------------

 そう。長門は死を獲得する。でも、不死のはずのヒューマノイド・インターフェースが本当にただの女の子になったかどうかを自他ともに確認するには、実際に死ぬことしかないのではないでしょうか。ここで私はどうしても、キョンとハルヒの成長物語という幹(=メインテーマ)に絡み付いたアンドロイドの自我の目覚めというサブテーマの結末は、彼女の死しかありえないと思われてくるのです。

 長門よ、キミにハッピーエンドは似合わない。

 想像は容易です。長門はキョンとハルヒを、敵性宇宙人九曜の魔手から守って、自己犠牲的な死を遂げるのです。それによって人間になったことの証しを立てるのです(画像は敵性宇宙人九曜の攻撃で病に倒れた長門有希。『涼宮ハルヒの驚愕(前)』(角川書店、2010、p.17)より)。

Haruhi_kyogaku_nagato_0810

 でも、それでは自律進化は始まりません。進化は遺伝子を残さないことには生じません。しかも、彼女が「色のない世界で見つけた You are star」(長門有希キャラソン『雪、無音、窓辺にて』)とまで歌い上げたキョン以外に愛の相手はありえなかったのです。ところが、キョン(=王子様)の心はすでにハルヒ(=人間の王女様)のものでした。元アンドロイドではかないっこなかったのです。

 このジレンマを、けれども、銀河を統括する情報統合思念体は、もうひとつの方法で打開します。そう、生物学的に個体が滅んで遺伝子を残すだけが自律進化の手段ではありません。もう一つの手段があります。それは‥‥

 輪廻転生することです。

●<とりあえずパソコンを閉じて寝ます。この巻続く 乞う、ご期待!>●

 

■付記 ハルヒシリーズファンにそっと秘密ネタを教えます‥‥

 下記の『人文死生学宣言』という本の執筆陣には、「消失世界」で涼宮ハルヒと古泉君が進学した高校のモデルとなった学校の先生が加わっています。
 今度会った時にでも、2003年ごろに涼宮ハルヒと古泉一樹という生徒が在籍していなかったか、尋ねてみるつもりです。
 もし在籍していたら、この現実世界とは「消失世界」であり、長門有希は世界を改変したのではなく元に戻したのであり、ハルヒの力によって宇宙人製有機アンドロイドにされていた自分を、元の人間に戻したのだという、「長門戻った説」(三浦、2018、p.161)が正しいことになるのです!?
●●●『人文死生学宣言:私の死の謎』(渡辺恒夫・三浦俊彦・新山喜嗣/編、春秋社、2017)好評発売中●●●

2018年11月 9日 (金)

フッサール心理学(52):人文死生学研究会(番外編)のお知らせ

■■人文死生学研究会(番外編)として、以下のシンポジウムを開催します。

日本質的心理学会第15回大会(沖縄、名桜大学、2018年11月24日(土)http://www.shitsushin15.jp/
会員企画シンポジウム(15:45~17:45 講義棟110)【精神医学と現象学的心理学から死と他者の形而上学へ(第2報):『人文死生学宣言』の誕生】
【企画代表者】渡辺恒夫(東邦大学)
【企画者】小島康次(札幌保健医療大学)・浦田悠(大阪大学)
【話題提供者】新山喜嗣(秋田大学医学部)・三浦俊彦(東京大学文学部)・浦田悠
【指定討論者】小島康次・やまだようこ(立命館大学)
【企画趣旨】
3年前のシンポジウムでは、死にゆく他者を支援する技術ではない一人称的死生観を確立する必要を唱え、科学的唯物論か伝統的宗教的二元論以外により洗練された形而上学的な死生観があるのではないかという問題提起をした。その後この企画は、『人文死生学宣言』(渡辺・三浦・新山編、春秋社、2017)として形を成したので、今回はこの書が本学会会員にとってどのような意味があるかを、編者が一堂に会する場で論じあう。まず、この書の編者らの死生観が、1)いかなる体験もしくは直観に基づくか。2)それは普遍化できるものか。3)死は生に比べて無限に悪いという現代における「死の害」論に対してどう答えるか。4)対人支援従事者を含む本学会員に対するアドヴァイスは可能か。以上に編者として答えるべく試みる。さらに、死生心理学の立場からも、浦田がこれらについて論評する。指定討論は、新山を渡辺に紹介してこの書成立の陰の功労者となった発達心理学の小島と、死のイメージの調査研究を行っている質的心理学のやまだが担当する。
 詳しくは、人文死生学研究会HP
 をご参照ください。
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■付記 涼宮ハルヒシリーズのファンに秘密ネタを教えます‥‥
・上記シンポジウム話題提供者であり、『人文死生学宣言』の共編者である三浦俊彦氏は、『エンドレスエイトの驚愕:ハルヒ@人間原理』(春秋社、2018)の著者でもあります。
・また、この『人文死生学宣言』の執筆陣には、「消失世界」で涼宮ハルヒと古泉君が進学した高校のモデルとなった学校の先生も加わっています。
 今度会った時にでも、2003年ごろに涼宮ハルヒと古泉一樹という生徒が在籍していなかったか、尋ねてみるつもりです。
 もし在籍していたら、この現実世界とは「消失世界」であり、長門有希は世界を改変したのではなく元に戻したのであり、ハルヒの力によって宇宙人製有機アンドロイドにされていた自分を、元の人間に戻したのだという、「長門戻った説」(三浦、2018、p.161)が正しいことになるのです!?
●●●『人文死生学宣言:私の死の謎』(渡辺恒夫・三浦俊彦・新山喜嗣/編、春秋社、2017)好評発売中●●●

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