« 夢の現象学(148):教祖一代記を夢みてもう一つの現実を生きていた充実感が残ったの巻 | トップページ

2018年9月14日 (金)

フッサール心理学(50):「涼宮ハルヒの消失」に感動し、「優しい忘却」の歌詞を掲げるの巻/コミュ障の現象学から見た長門有希

■劇場版「涼宮ハルヒの消失」をDVDで月曜の夜に見て以来、3日。いまだ感動から醒めやらずにいます。

 ことの発端は、『人文死生学宣言』(春秋社、2017)の共編者である三浦俊彦氏から、『エンドレスエイトの驚愕』(春秋社、2018)なる本を贈られたこと。
 「涼宮ハルヒの憂鬱シリーズ」論なのですが、今までこのアニメシリーズを見たことがなく、それじゃ見なくちゃ、と世田谷に泊まり込みに行くたびにツタヤから借り出して、9巻目か10巻目。まがうことなき名作に出会ったのです。

 ハルヒシリーズは、宇宙人と未来人と超能力者しか興味がないという女子高生涼宮ハルヒが、退屈しのぎに超常現象を見つけ出すために結成した、SOS団という北高サークルが中心となって進行します。
 団員は他に4人ですが、語り手のキョンだけが普通の男子高校生で、他はハルヒの願望通り、宇宙人(長門有希)と未来人(朝比奈みくる)と超能力者(古泉)から成ります。宇宙の進行を乱す潜在能力を秘めたハルヒを監視するために、それぞれの「組織」から遣わされたのです。
 キョンはその正体を打ち明けられています。現にハルヒの巨大な潜在能力のせいで、閉鎖空間に閉じ込められて透明巨人が暴れたり、夏休みの期間が回帰して終わりなき夏休みになったりします。そのたびに、宇宙人と未来人と超能力者の必死の修復作業で元に戻るのですが、ハルヒだけは気づいていません。退屈な学園生活が続いていると思い込んで退屈しきっているのです。だから「憂鬱」とタイトルについているのです。

■10巻目ぐらいに現れる『劇場版涼宮ハルヒの消失』では、ある朝、キョンが登校すると、ハルヒの姿がないばかりか、誰もハルヒも古泉君も知らない、ということになっている所から始まります。
 上級のクラスにいる朝比奈みくるに会いに行っても、SOS団のことなど知らない、と言われる始末です。

 やがてハルヒと古泉君は、北高ではなく別の高校の生徒になっていたことが分かります。やはり二人とも、SOS団のことなど知らないというのです。

 最後の望みをかけて、キョンはSOS団の部室に向かいます。そこは元々文芸部の部室でしたが、唯一の部員だった長門有希もろとも、「元の世界」のハルヒが乗っ取って、SOS団の部室にした部屋だったのです。
 ドアをあけると、居ました。眼鏡をかけた長門有希が、いつもの通り本に読みふけっています。無口で非社交的で鬱なキャラもそのままに。
 やがて、キョンは大変なことに気づきます。
 元々、長門有希の正体は、宇宙を統べる情報統合思念体のインターフェイス用ヒューマノイド型端末だったはずです。ところが今や、人間になっていることに気づいたのです。無感情なアンドロイドだったはずが、内省的で感情豊かな文学少女になっているのです。そして、「文芸部入部届」という書類を恥ずかしそうにキョンに渡します‥‥

■元の宇宙人長門有希が残していった手がかりを辿って、キョンにも真相がつかめてきました。
 SOS団の騒がしい団長、ハルヒのいないこの世界は、長門有希の巨大な能力によって元の世界から分岐した時間流だったのです。
 でも、何のために任務に背いてまでそんなことをしたのでしょうか。
 元々、長門の能力は三人の中でもぬきんでていました。その能力によって宇宙の崩壊を防ぎキョンを守ってきたのです。けれどもキョンの関心は派手なハルヒや朝比奈みくるに向かい、無口で無表情の長門の働きは当然視され、存在も無視されてしまっていたのです。
 そこに、アンドロイド型端末だった筈の長門の感情が、自我が目覚めたのです。
 きっと長門有希は、ハルヒのいない世界で、キョンを恋してみたかったのでしょう。
 でも、キョンは、元の、ハルヒとSOS団の、てんやわんやの世界の方を選びました。元の世界の長門がキョンに残していった鍵を使って。
 せっかく長門有希が人間の少女として生き始めた世界は、こうして消え去ったのです。

■やがて感動のラストシーンが来ます。
 元のアンドロイドに戻った長門と並んで、雪が舞い出す中で、キョンは「ゆき」と口走ります。これまで長門有希を、「長門」としか呼んで来なかったキョンがです。でも、続けて、「ゆきが降ってる」と言うのです。
 この場面で長門有希役の茅原実里によって歌われるエンディングソングを引用しておきます。有希の切ない想いそのままの歌詞ですね。「消える世界にもわたしの場所がある」なんて。インターネット上では、この場面で泣きましたという記事が少なからず検索できますが、同感です(なんだかアンデルセンの「人魚姫」を思わせる話だし)。

「優しい忘却 歌:茅原実里」
望むことは何?
わたしが問い掛ける
なにもいらない 嘘ではなかった
消える世界にも
わたしの場所がある
それをしらない 自分でさえも
閉じ込めた意識は
時を結び
願いを繰り返す
また会うまで 忘れないで
巡る日々の中
わたしに残るのは
記憶 それとも 忘却だろうか
やがて世界には
眠りが訪れて
ひとり ひとりの あしたに帰る
選ばれた未来を
見送る扉
願いが叶っても
忘れないで 忘れないで
消える世界にも
わたしの場所がある
それを知らない 自分でさえも
思い出すまでは…
(作詞:畑亜貴
作曲:伊藤真澄
編曲:虹音
歌詞原案:谷川流)
:
■「コミュ障の現象学」で解く長門有希
 三浦さんのような分析哲学的アプローチとは別になりますが、私は長門有希という魅力的なキャラに、始めたばかりの「コミュ障の現象学的当事者研究」の視点から*、深甚なる興味を覚えました。
  *「コミュ障(人づきあいが苦手)の批判的ナラティヴ現象学」(渡辺恒夫著)という論文が、『質的心理学研究』誌(№18)に掲載予定です。2019年3月、新曜社より発行。

 ラスト近く、すべてが長門有希の暴走の結果だと知ったキョンは、こう独白します。
 記憶をたどって引用するとーー「なんで統合情報思念体ともあろうものが、長門にもっとちゃんとした設定をしてやらなかったんだよ。あんな無口で鬱な娘なんかでなくって、朝倉涼子(註:長門とは対立する組織のヒューマノイド型端末)みたいに、社交的でクラスでも人気者にだって設定できたのに‥‥」
 グサリときました。どんなに長門有希が「ルックスはA-級」に描かれ、しかもオタクたちの間で、ハルヒもみくるも目でないほどの人気を誇っているからといって、「ふつう」の高校生のキョンからしたら、「ちゃんとした設定ではない」としか見えないなんて。
 また、朝比奈みくるの大人ヴァージョンが、美貌で有能な時間パトロールとしてしばしば現れるのですが、その彼女にもまた、長門は、「あのひとちょっと苦手なんですけど」と評されます。
 なぜ苦手かを解釈すると、長門はガールズトークができないからです。
 ガールズトークに限らず雑談の会話というものは、録音してテープ起こしてみると、ほとんど意味をなしていないことが分かるそうです。だから会話の機能は情報を伝達することではなく、絆を確かめ合うことにある、というのが最近の学説です。
 長門は3年前に突然出現したのだから、絆などあるわけありません。
 それならなぜ、キョンとの間に会話が成り立つのかというと、長門は今まで、身を挺してキョンの身を護って来ました。それが任務だからです。
 コミュ障の特徴として、他愛のない雑談はできないが、仕事の上の会話はしっかりできる、ということがあります。
 長門はいわば仕事を通してキョンとの間に絆を作ったのでしょう。
 でも、ハルヒのいる世界では、長門にとってキョンとのそれ以上のコミュニケーションは、極めて困難です。コミュ障は、三人という組み合わせを特に苦手とするからです‥‥
■長門に未設定の社交性機能って何?
 色々、考察をならべてきましたが、同じようなインターフェイス用ヒューマノイド型端末である、朝倉涼子は違っています。
 設定が違うのです。
 ウィキペディアを読んでいて、続編(涼宮ハルヒの驚愕)の紹介で、長門には社交性機能が設定されていず、自分でも残念に思っているらしい、といった記載が目に留まりました。
 社交性機能っていったいなんでしょう。
 これは、私自身への問いかけでもあります。なぜなら私もまた、社交性機能未設定のままで生涯を終えることになりそうだから。現象学的に厳密に言えば、「社交性機能未設定の渡辺恒夫が私である世界はそのまま遠からず終了になる」のだから)。
 だから「コミュ障の現象学的当事者研究」を始めたのです。
 <この項未完 まだまだ続きます!>
●●●『人文死生学宣言:私の死の謎』(渡辺恒夫・三浦俊彦・新山喜嗣/編、春秋社、2017)好評発売中●●●

« 夢の現象学(148):教祖一代記を夢みてもう一つの現実を生きていた充実感が残ったの巻 | トップページ

アニメ・コミック」カテゴリの記事

哲学」カテゴリの記事

心理学」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/501358/67165476

この記事へのトラックバック一覧です: フッサール心理学(50):「涼宮ハルヒの消失」に感動し、「優しい忘却」の歌詞を掲げるの巻/コミュ障の現象学から見た長門有希:

« 夢の現象学(148):教祖一代記を夢みてもう一つの現実を生きていた充実感が残ったの巻 | トップページ

電子ジャーナル:こころの科学とエピステモロジー

ブログの主の最新刊

無料ブログはココログ
2018年9月
            1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30            

人文死生学研究会