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2017年7月 3日 (月)

夢の現象学(125):『小公子』『セイラ物語』を明治の若松賤子訳で読み、明晰夢研究へのヒントを得るの巻

■『小公子』『小公女』といえば児童文学の古典中の古典中だが、小学生の頃は科学少年で、愛読書が『ファーブルの昆虫記』や『アンナプルナ登頂』だったこともあって、読みそびれてしまっていた。今年になってようやく、『小公子』を、それも若松賤子訳を明治22年「女学雑誌」掲載時のままで読んで感銘を受けた。

 続いて『小公女』を同じ訳者でと思い、『明治翻訳文学全集:バーネット篇』を公立図書館で借り出してきた。意外なことに『少年園』に明治26年に載った若松しずこ訳は「セイラ・クルーの話」となっていて、「小公女」は『婦人くらぶ』の明治43年藤井白雲子訳の方だった。両者は原作も違っていて、「セイラ・クルーの話」は、いわば「小公女」の原型であって、大衆向きの後者に比べて前者の方に高い精神性が感じられると解説にあったので、「セイラ・クルー」の方を読んだ。
 そして、夢の現象学を研究する者として、たいへん面白い表現に出会った。苛められながら屋根裏の物置で暮らしていた孤児のセイラの身に非常な幸運が舞い込んで、境遇が一変するのだがーー
 セイラは、折々心の中に、
 「あたしはキット今に、眼が覚めるよ、今度のは夢に違ひないもの、先のは、本当だったが、これが本当とは、どうしても思えない。だが、なんと嬉しいことだか?」
 さうして、セイラはカーミクル夫人の部屋の側なる自分に貸された眼のさめる様な綺麗な部屋へ寝まして、カーミクル夫人が来て、キスしたり、抱いて呉れたり、夜具を心地の好い様に推しつけて呉れたりする時でも、セイラは、心の中に、あすの朝は物置で目が覚めはしないかという感じがまだ退きませんかった。 (p.208)
■現実世界のリアリティを疑うケースの3類型
 夢を見ていて「これは夢だ」と気づく理由を考察するにあたって、まず、現実世界にいて、そのリアリティを疑う場合を考えてみよう。以下の3類型が考えられる。適当な名前を付けてみた。
(1)トゥルーマンショー症候群
 同題の映画では、何もなかった壁がとつぜん開いて大勢の「見物人」がいるのが一瞬、見えたりするような、「反則事象」によって、この世界が何ものかによって作られた巨大な実験室であることに気づく。
(2)《かれら》シンドローム
 ハインラインの哲学的SF『かれら』では、精神病院の入院患者が、世界が自分を中心に同心円状に配列されているのはなぜかを考え、自分だけが真の人間で、他の人間も世界全体もニセモノに過ぎないという結論に達する。
(3)デカルトの夢
 哲学者のデカルトは、一切を疑うという方法的懐疑の果てに、この世界も夢ではないかと疑い、現実世界を夢ではないと証明する方法がないことに気づいた。
 
 「事例セイラ」は(1)に属するだろう。反則事象とは、物理的にありえないことだけを指すのではない。信じがたい幸運や不運と言った心理的にありえないことも含むことが分かる。
  ‥‥とここまで書いて来て、これは科研費「夢の現象学」定例研究会での発表に使えると気付いたので、早速この洞察を織り込んででの研究発表資料(6/28自治医大)を作成し、「kakenhi_pheno_dream.pdf」をダウンロードできるようにしておいたので、参照していただきたい。ちなみに自宅から栃木県下野市の自治医大まで鉄道を乗り継いで往復6時間半かかる

Photo

が、教壇に立つこともなくなった身に毎月1度の参加は苦にならない。現象学哲学、精神医学、イスラム神秘主義と心理現象学の私という多様なバックグラウンドの常連顔ぶれで、3年間でどのようにしてまとめ上げて成果を出せるか、困難ではあるがやりがいがあるところだ。
+++【お願い】ウェブサイトにも著作権があります!引用の際はこのウェブの著者名:渡辺恒夫を明記の上、このURL名も必ず併記して下さい。+++
 
 

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