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2017年1月 1日 (日)

フッサール心理学(42):ジュリアン・グリーン作『ヴァルーナ』は自我体験と輪廻転生観の関連を示唆するの巻

■2017年1月1日『ヴァルーナ』(ジュリアン・グリーン全集3、高橋たか子訳、白水社、1979) を一昨日から読んでいて、案の定、というか、次のような自我体験("I-am-me"experience )事例に巡り合いました。

 ジュリアン・グリーン(1900-1980?)はフランスのカソリック作家ですが、拙訳『子どもの自我体験』の第2章に、自伝からの引用事例が収録されていることもあり、注目していました。

 実際、『Si j'etais vous(もしもあなたが私なら)』の序文には、幼少期の自我体験がこの作品のアイデアの元になったと記されていることは、本ブログの「フッサール心理学(32)」にも詳しく記しておいたし、アマゾンブックレヴューにも再録して置きました。

 この『ヴァルーナ』ですが、題名がインド神話の最高神から借りてきていることからも察せられるように、時代を超えた輪廻転生の話で、ユーミンの「リインカネーション」の歌詞そっくりの物語なのです。

 以下に引用するように、本作では自我体験は(正確には「意識の超難問体験」は)、16世紀フランス、ヴァロア王朝時代に生きる裕福な商人の娘、エレーヌに仮託されています。

「‥‥じつに奇妙な考えが頭に浮かぶので、そのことで自分の抱くのが恐怖なのか、認めることのはばかれる秘かな喜びなのかが、みきわめがつかなかった。『どうして、と彼女は考えた。どうして、私はベルトラン・ロンバールの娘であって、ジャム作りのとき台所を手伝いに来る水門管理人の娘フィネット・ルジュウールではないのだろう。同じように、私は、子どものころビール屋に拾われたジャクリーヌとか通りを物乞いに歩くあのベルトであっても、かまわなかったのではないだろうか。私が、ほかならぬ私だというのは奇妙なことではないだろうか』。」(p.92)
「ーーおにいさま、ふしぎではないでしょうか。私がエレーヌ・ロンバールであって、さっき共同牧場でいっしょに輪になって遊んだフィネット・ルジュウールでないというのは、私が男の人で、海を越えていく舟乗りでないというのも変じゃないでしょうか。暗い小さな部屋で書き方を習っている小娘ではなしに。
 ーーなるほど、これは奇妙なことを考える、とウスターシュ・クロシュは言った。青緑色の目が輝きだした。おまえの心をとらえているその神秘のことは、いつか説明してやろう。いや、話を聞けば聞くほど、おまえは鋭いところがあるみたいだ。なあ言ってごらん、そんな気の利いた考えが、ほかにもその頭にあるのかね。
 --ありますとも、とエレーヌは答えた。これほど謹厳な学のある男が注意をこめて耳を傾けてくれることに、有頂天になっていた。もっと奇妙な考えだって心に浮かぶことがあるんです。ほかの人であってもいいんじゃないかっていうのと同じように、私がまた、ほかの時代に、過去でも未来でも、生きていたかもしれないということなの。‥‥いつかお話ししてくださったダゴベール王の時代に生きたのではなく、このアンリ王さまの治世に私が生きているのは、どうしてかって、いつも考えるのです。」(pp.113-114)
■自我体験(意識の超難問体験)と輪廻転生観の関係が、ここにも示唆されています。
 「ほかの時代ではなく、外ならぬこの時代に生きているのはどうしてか」の疑問の可能な解答は、「実は私はほかの時代にも生きていたけれど、憶えていないのだ」というものだから。
 このような論理的関係が明瞭に示唆される事例としては、稲垣足穂事例に次ぐものといえます。
 それにしても、ジュリアン・グリーンにはこのような豊富な自我体験事例が見つかるのに、自我体験事例を集めて史上初めて報告したジャン・ポール・サルトル『ボードレール』に、グリーンからの引用がないのは解しがたいことです。5歳しか違わない先輩作家のことを、読んでいなかったはずはないと思うのですが。

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