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2013年11月の記事

2013年11月 4日 (月)

フッサール心理学(18):自閉症児の描画発達の話を聞いての巻

■9月2日科学基礎論学会秋の研究例会で「自閉症と他者」のワークショップを聞く。

 最初の提題者、酒木保(宇部フロンティア大学)による、<重度自閉症児の子どもの治療過程>は、30年前の事例の提示だが、描画発達がたいへん興味深かったので、忘れないうちに書いておく。
 受付時、4歳10ヶ月の女子。1歳半ごろまで通常の発達で、いったん、言葉も獲得したが、その後、喪失するという、いわゆる折れ線現象を示す。模倣もしなくなった。

 治療過程で、人形遊びをすると、男女の人形の間にペンギンを置く。どうやらそれが自分らしい。

 そのうち男性セラピストを忌避するようになったので、やむなく女性セラピストに切り替えた。すると、女性セラピストの上半身の服を脱がせて観察するなどの行為が見られた。この時期、家でも父親や兄も忌避し、母親とだけ癒着。人形遊びでも、女性の人形だけを並べる。

 この時期の描画での人物像は、頭にウサギのような長い耳がついている。しかし、後で、
首から下の人物像だと判明。両眼だと思っていた二つの円は乳房で、ウサギ耳状の耳は両腕だったのだ。

 数年してようやく、頭のある人物像を描くようになった。身体像が構成されてから、描画が全般的に急速に進歩した。それと同時に、言語機能も回復していった。

 この話を聞いて、私は、確認のために酒井氏に質問してみた。

「最初、ペンギンに自分を同一化していたというのは、自分を人間という類の一員とは認識していなかったということですね。次に、人物像として首のない女性像だけを描いたということは、自分を女性の一員として認識したが、未だ頭のある存在としては認識していず、最後に、頭のある人物を描くようになって、自分を人間(つまり頭のある存在)の一員として認識した、という理解でよいですか。」

 イエス、というお答えだった。「通常の発達とは逆ですね。通常、頭足人間から始まる描画発達では、頭を先に認識するのですから」

 私は、「自閉症児の発達の方が、現象学的には忠実ですね」と付け加えた。もっともこれは、独り言に近く、何のことやらお分かりではなかっただろう、と思う。

■現象学的還元と自閉症の世界の類似性

 最初、(多分、自分には頭がないが故に)人間の一員とは自己認識できず、次に、女性を仲間と認めたが故に、女性をも「頭のない人間」として描画表現する‥‥。
 これって、まさに、ダグラス・ハーディングが、32歳にして、自分が唯一の頭のない人間であることを発見し、次に、他人も一人ひとりが頭のない存在であることを推測して、類的存在としての自己を回復していくという、独我論的体験から一者の世界観へという、独自の世界観発展と、類似しているではないか。『フッサール心理学宣言』でも書いたが、ハーディングの体験は、<発達性エポケー>、つまり、自然発生的な現象学的還元だ。これと、自閉症児の自己-他者理解の発達との、並行関係が示唆されたようで、たいへん興味深かったのだった。

 ちなみに、女の子が、まず女性だけを自分がその一員である「類」として認知したことは、男女の二分法が、否、二分法一般が、いかに世界認識の体系にとって根源的かを、あらためて思わせるものだった。

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