2019年8月 8日 (木)

ハルヒ神学vs.長門神学(7):聖地巡礼記(京都アニメーションを支援します!)/追悼!武本康雄監督

■2019年8月4日

 聖地巡礼の1日目。Dsc_0036
 この日は、1時ー5時が西宮市夙川公民館での、人文死生学研究会番外編「涼宮ハルヒ」。 
 これについては、他の二人の演者、土居豊さんと三浦俊彦さんが、それぞれサイトに報告しているので、ここでは省略します(写真は川沿いの散策路から見た公民館)。

■西宮市中央図書館

 5時に会場を出て、土居さんを先導に目指すは、1.1キロ先の中央図書館。
 最高気温を35度を記録する酷暑の日で、熱中症が懸念されましたが、すでに夕刻でもあり、川沿いの散策路は夾竹桃の花咲き乱れ、遠いともさほど思わずに到着したのでした。

 図書館は、初めてのSOS団市内探索活動の日に、キョンが長門有希を連れて行ったところ(写真)。Dsc_0028   
 その後、数日して起こった、キョンがハルヒと共に閉鎖空間に閉じ込められて帰還困難となった事件の際に、長門が,

YUKI.N>また図書館に

とインターネット送信したのは、有機アンドロイドのあえかな恋の芽生えでしょうか。
 このあたり、二次創作「長門有希詩篇」では、その夜見た明晰夢の中で次のように(ゲーテ「ミニヨンの歌2番を下敷きに)歌い上げていることになっているので、引用しておきます。

 君は知るかの図書館を、円柱〔まるばしら〕に屋根は安らい、
 広間はかがやき、書棚は列なしてそそり立ち、
 ひしめく書物たちは、我をいざなう、
 おいで、手に取って読んで、一冊一冊が宇宙、と。
 君は知る、かの図書館に我を導きしは君なれば。
   かなたへ、かなたへ。Dsc_0033
 おお、いとしき人よ、君と共にまた行かまし。
   (『長門有希詩篇第7話:ミニヨンの物語と謎の吟遊詩人』)

 同行者のあとを追って入口を入るとすぐ、四角形に配列されたソファがあり、「あれが『消失』のエンディングで長門が座っていたソファです」と教えられました(写真は入口。館内は撮影禁止)。

 夏休みのこととて、子どもたちが群れていましたが、映画の中と同じ位置でソファに座り、改めて長門の異性別同位体としての自己認識を実感したのでした。
 蔵書の方は想像ほどには充実していず、児童書と実用書が多数の様で、長門が「大切そうに抱えて」図書館を出たという「分厚い哲学Nagato_toshokan書」はどこにあるのかと探していると、徒歩十分のところにお住まいという重久さんが、奥の哲学関連コーナーに案内してくれました。 
 それでも、当たり前でしょうが、アニメと同一の書棚はついに見つかりませんでした(画像は『涼宮ハルヒの憂鬱Ⅱ』より。京都アニメーション制作)。ちなみに、アニメで使われたのはこの中央図書館ですが、原作では西宮北口駅ちかの分館となっていて、本館はずっと海の方角、という風に述べられています。また、『消失』のエンディング場面も、原作にはありません。

 閉館時間も近い図書館を出て、タクシーで駅前に戻ります。車内でもハルヒの話をしていたので、運転手には、「聖地巡礼に来たのですか?」と話しかけられました。聖地巡礼はこの5、6年少なくなっていたところ、先日の放火事件いらい、また増えたということでした。

 駅前の店で懇親会。席上、荻原規子さんと高校で同学年だったということを以前聞いていた三浦さんに、『西の善き魔女』を薦めました。三浦さんの話では、荻原さんとは在校中、一度も口を利いたことがなく、目立たない方だったので小説を書いていたなんて全く知らなかった、ということ。
 すると、作者の自画像は、勇気と行動力のフィリエル(西の善き魔女)の方にではなく、最近読み始めた『RDGレッドデータガール』の、泉水子の方かな、などと思いました。ちなみにレッドデータガールとは絶滅危惧少女のこと。世界遺産の熊野の山中にある神社の娘で眼鏡にお下げ髪の泉水子は、まさに絶滅危惧種なのです。

 その夜は、JRさくら夙川駅に戻って鉄道で芦屋まで行き、駅前のホテルに宿泊しました。

■聖地巡礼2日目。阪急甲陽線に乗り、途中、左手の車窓から長門マンションを望みながら、終点の甲陽駅前に10時に集合。 Dsc_0046  
 同行5名がタクシーに分乗し、ハルヒの舞台であり、原作者谷川流さんの母校でもある、六甲山腹の西宮市立北高に向かいます。 
 運転手さんにはまた、「聖地巡礼ですか?」と話しかけられます。「そうは見えなかったけど」「皆さんはだいたい二十代ですか?」「三十代から四十代が多いですね」「だったら我々は最高齢というわけですね、特にぼくなんか」と、実年齢を言うと、「それじゃ最高齢だ」と感心した(?)様子。
 現実にはアニメの二倍の距離があるという通学路を、タクシーで登攀し、途中、生徒たちの近道だという急な階段を右手に見て、六甲山腹の正門に到着(写真)。
 夏休みのこととて生徒の姿はなく、少し横手に回ると校舎から吹奏楽の練習の音が聞こえるのみ。 
Dsc_0041  写真を撮ると、待たせていたタクシーに乗り込み、反対側の、遥か瀬戸内海も望めそうな急なくだり道を(左写真)、阪急甲陽線の踏切へと向かいます。

 この踏切は、ハルヒがキョンに、小学6年の時の球場体験を告白した場所。といっても、何の変哲もない踏切なのですが(右写真)。Dsc_0049

 そこから3分ほどで、すでに車窓から瞥見していた、長門マンション。

 間近に立つと、改めてその威容に打たれます。アニメ撮影時の12年前から建っていたとしたら、かなり目立っていた筈でしょう。ともあれ、ここが今回の聖地巡礼の最終目的地と言える場所なので、感激もひとしおでDsc_0050す。
 原作だと、長門有希は708号室、朝倉涼子は505号室に住んでいることになっていましたが、今はいないことは確かなので、なんとなく抜け殻感がします。Dsc_0054
 いったい、彼女ら宇宙人製有機アンドロイドは、今はどこに行ってしまったのでしょうか。
 それを描くのが、二次創作の役目ではないか、と改めて思ったしだいです。



 

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2019年7月24日 (水)

緊急アピール:京都アニメーションを支援します!

■先日の京都アニメーション放火事件の推移を、深い悲しみと共に見守っています。 早...

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2019年6月30日 (日)

長門詩編Ⅸ「フランケンシュタインの乙女(マリーアントワネット救出作戦)」

長門有希詩篇Ⅷ「フランケンシュタインの乙女(覚醒篇)」から続く】_

■長門有希詩篇Ⅸ「フランケンシュタインの乙女(マリーアントワネット救出作戦)

〔アニメシリーズ『涼宮ハルヒの憂鬱』(原作 谷川流)の二次創作です。銀河の彼方から来た孤独なアンドロイド少女の長門有希が、その数奇な運命とあえかな恋をうたいあげます。今回の話は「長門有希詩篇Ⅷ」の続きなので、上記のリンクで先に読むことをお勧めします(右画像は2009年版『エンドレスエイトⅠ・Ⅱ』(京都アニメーション)の表紙より〕。

●1793年10月、パリ。夜の訪問者

「ミニヨン、あんたに会いたいというムッシュー(紳士)が来てるぜ」
 それは、パリ郊外のリュクセンブール公園にサーカス団がテントを張って、一週間目のこと。その日の出番が終わり、そろそろ宿を取っていた安ホテルに引き上げようとしていたところに、木戸番のシモンが呼びに来たのだった。
 「枕営業なら、断るように、言ったはず」
 わたしは、抑揚のない声でそっけなく答えた。
 「そ、そうじゃないみたいなんだ、ミニヨン」
 シモンは、松葉杖に寄りかかりながら、あわてたように答えた。
 元々はこの若者も、綱渡りの得意な将来有望な曲芸師だったというけれど、わたしがこのサーカス団に舞い込む少し前に、空中ブランコで失敗して片足が使い物にならなくなっていた。綱渡りも空中ブランコも事もなげにこなすわたしへの、賛嘆と憧憬のを隠さない(もっとも、賛嘆の色は、団員のほとんどの男たちの目に浮かぶところだったけれど)。
 「俺は元々がここの出だから分かるんだが、フランス人じゃないぜ、あれは。外国のお忍びの貴族か将軍ってところだが、あんたの曲芸に感服したとか言っていた」
 「わかった。会ってみる」
 付いて来ようとするシモンを手で制して、わたしはテントを出る。
 木立の間の暗がりから、うっそりと進み出る長身の人影。
 「ミニヨン殿か」
 フードを目深にかぶって顔は見えないけれど、低いが張りのある声といい、全身からにじみ出る威厳といい、シモンのいうように外国の貴族か軍人っぽい。
 「何用です」
 「すばらしい曲芸技を見せてもらった。折り入って頼みがある。あなたにしかできない困難な任務だ」
 「まず、先に名乗っていただきたい」
 「失礼した。パリではこの首に懸賞金が掛かっているゆえ、北国の将軍としか名乗らぬつもりだったが。今、あなたと少し言葉を交わしただけで、たいへん口の固い方だとわかった。命掛けになるやもしれぬ仕事。名を明かそう」
 というと、フードを取る。折から雲間から出た月の光を受け、金髪が妖しく輝く。
 彫の深い高貴で端正な顔に、わたしはヴィクトール・フランケンシュタインの面影を見た気がして、視線を吸い寄せられる。
 「スエーデンの伯爵にして、王国軍の次期元帥、フェルゼン」
 「フェルゼン‥‥」
 その名には聞き覚えがあった。囚われの王妃、マリー・アントワネットの元愛人にして、昨年の国王一家の失敗した逃亡騒ぎの陰の首謀者。一月ほど前にサーカス団がドイツからフランス領内に入っていらい、噂は団員の間にも流れ込んでいたのだった。
 「私の名を聞き及んでいられるならば話が早い。わが王妃は、このままでは早晩ギロチンにかけられる。半年前のルイ16世陛下と同じく。いそぎ、コンシェルジェリーの要塞監獄から、お救い申し上げねばならぬ。それにはミニヨン殿、あなたの超人的な曲芸わざがどうしても必要なのだ‥‥」

●魔術師アグリッパの十代目の子孫

 その夜、晩くなってから、わたしは渡された地図を頼りに、セーヌ河に面した隠れ家を訪れた。
 古びた家の前で教えられた合言葉を言うと、扉がギーッと音を立てて開く。
 内にいた、6,7名の男たちの視線が集中する。
 長身の男が進み出ると、
 「ミニヨン殿、よく来てくれた」と言った。フェルゼン伯だった。
 「紹介しよう。彼女が、話していた軽業師。齢は若いが我々の計画にはぜひとも必要な人物だ」
 「軽業師だって。いったいどういう出自の女なんだ」
 一同の中から、危ぶむような声が上がった。
 「ミニヨン殿、自己紹介を」フェルゼン伯が促す。
 「インゴルシュタットのユッキーナ・アグリッパと申す者です。ゆえあって仮の名で旅のサーカス団に身を潜めておりますが、16世紀のパリ大学教授、コルネリウス・アグリッパ博士のちょうど十代目の子孫に当たります」
 わたしは、あらかじめ考えておいた、架空の名と身元を言った。サーカスの団長はわたしを、フランクフルトのヴィルヘルム・マイスター氏の娘と思い込んでいるらしいが、裕福な商人の娘がサーカス団で超人的な技を披露するというのは、どう考えても不自然だったから。
 「おーっ」と、どよめきが上がった。
 「するとあなたは、あの伝説の大魔術師の正真正銘の末裔というわけか」フェルゼン伯が、感心したように言った。「どうりで只者ではないと思ったよ」
 「オスカル、まさかオスカルではないだろうな‥‥」
 一同の間から、ふらふらと立ち上がる人物があった。かなりの年配らしいが、フェルゼン伯に引けを取らぬ威厳があった。
 「まさかと思うが、背格好から、しゃべり方から、あの、国王の命に背いてバスチーユ広場で戦死した、不忠な娘とそっくりだ」
 「違いますよ、ジャルジェ将軍」
 フェルゼン伯が苦笑して言う。「ミニヨン殿、フードを取りたまえ」
 「おおーー」フードを取ると、一同がまたどよめく。
 「確かに、違う」とジャルジェ将軍。
 「珍しい青みがかった銀色の髪。闇夜に星を鏤めたような黒い瞳。陶器の人形のような顔。血の通った人間の少女とも思えぬ」
 遠くを見るような目になって言葉を継ぐ、老将軍。「若いころ、先王ルイ15世陛下の宮廷で、時計師ヴオーガンソンの、オートマトンとかいうゼンマイ仕掛けの人形を見たが。まるでそのオートマトンがアグリッパの魔術で息を吹き込まれたようじゃ」

 ジャルジェ将軍の連想は、まぐれにしても正鵠を射たところがあって、わたしは内心に冷や汗をかいていた。
 インゴルシュタットのフランケンシュタイン研究所から逃げ出し、サーカス団に身を隠して三か月。
 昼間は、もって生まれた身体能力を生かして屋外ステージで美技を披露しながら、夜をもっぱら、このわたしは何者かの、謎の探索に充てていた。
 お相手は、あの、気まぐれに脳内に立ちあがっては質問に囁きで答えてくれる、脳内装備型百科事典、エンセファロペディアだった。
 その言うところでは、現在の科学力ではフランケンやわたしのような人造人間を作るのは、ぜったいに無理だという。ヴィクトール・フランケンシュタインは天才的な科学者であっても、アグリッパ先生の指示通りに動いたにすぎず、人造人間誕生の秘密は、この、三百年を生きる大魔術師の神秘力にあるという。
 --神秘力って、どんな力?エンセファロペディア。
 --情報というものを操作して、元素を自在に変換する能力。人類が、あと千年の間、順調に科学力を発展させて、初めて追いつくような力。
 --そんな力をもってるなんて、それに三百年も生きているなんて。アグリッパ先生とは何者?
 --普通の人間ではないとだけしか今は言えない。それ以上のことは禁則事項。時がくればアグリッパが直接あなたに教えるでしょう。
 --そんなことまで心得ている、あなたは、エンセファロペディアのあなたは、いったい何もの?なぜ私の脳内に最初から装備されていあれたの?
 ーー禁則事項。
 ーーそんなら(と、わたしは、角度を変えて質問を続けた)、これなら答えてもらえるかしら。あのフランケンの脳内にも、あなたのような百科事典が装備されているの?
 --フランケンは試作品。エンセファロペディアは設定されていない。だから、彼がヴィクトールに語ったように、フランス人亡命者一家の納屋に隠れているあいだに、言葉を一から覚えなければならなかった。
 --では、アグリッパ先生は?普通の人間でないなら、もしかして‥‥
 --今は、アグリッパの脳内には、ない。けれども、かつてはあった。
 --かつては?
 ーーそう。この私はもともと、アグリッパの脳内に装備されていた。ミニヨン、あなたが誕生すると同時に、私はあなたへと移植されたの。あなたを完全な人造人間にするために。
 そうだったの。わたしは内心に嘆息した。だとしたら、アグリッパ先生の知性を受け継いでいるわたしは、パリ大学教授の大魔術師の十代目の子孫を名乗っても、決しておかしくはないのだった。

●要塞監獄への侵入

 フェルゼン伯たちの王妃救出の計画は、次のようなものだった。
 真夜中にわたしが、コンシエルジュリー要塞の城壁をよじ登って、北東の端にそびえるボンベック塔の窓から、牢内に侵入する。
 このルートだけが、王妃の独房に隣り合った牢番のリシャール夫妻の部屋に直結しているのだった。
 牢番夫婦に会ったら縛り上げて鍵束を奪い、まず牢番の部屋と衛兵詰所の間の扉をひらく。
 「私は衛兵詰所のすぐ外に一人で待機している。なに、当番の衛兵のジルベールもデュシエーヌも抱きこんである。もともとアントワネットさまに同情的だった者たちだからな。そして、ミニヨン、あなたを伴ってアントワネットさまの独房に入り、説得してお連れする。城壁の外では、ジャルジェ将軍を始め6名の手のものが、馬車を用意して待っている」
 「説得するのですか?」わたしは不審に思って、問うた。
 「最初は脱出を承知されない可能性もないではないのだよ。ルイ・シャルル王子、マリー・テレーズ王女の、二人の最愛の御子たちを置いて、ひとりだけ逃げるわけにはいかないと。けれども、アントワネット様が自由の身になれば、全フランスの、全ヨーロッパの王党派が勢いづくし、有利な取引にも持ち込めるというものだ。それに何と言っても、アントワネット様の処刑の日は、もう一週間後に迫っているのだよ‥‥」

 決行は、翌日の夜11時と決まった。

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2019年6月25日 (火)

夢の現象学(159)実験室を出ると九十九里浜だった夢の巻/フッサール心理学(55)鹿児島へ出張のついでに桜島に上陸の巻

■2019年6月17日(月)。早朝。ひさしぶりの夢記録。 東邦大学らしき研究室に...

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2019年6月 8日 (土)

ハルヒ神学vs.長門神学(6):人文死生学研究会番外編「涼宮ハルヒ」聖地西宮開催決定!/ファンタジーとラノベの傑作『西の善き魔女』『ロードス島伝説』

◆人文死生学研究会番外編「涼宮ハルヒ」 日時:2019年8 月4日(日) 午後1...

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2019年5月 3日 (金)

長門詩篇(Ⅷ)「フランケンシュタインの乙女(覚醒篇)」

長門有希詩篇(Ⅶ)から続く>

■長門有希詩篇(Ⅷ)「フランケンシュタインの乙女(覚醒篇)」

〔アニメシリーズ『涼宮ハルヒの憂鬱』(原作 谷川流)の二次創作です。銀河の彼方から来た孤独なアンドロイド少女の長門有希が、その数奇な運命と夢とあえかな恋をうたいあげます。今回は、北高に入学して最初の夏休み中のお話です。〕

●プロローグ めざめ

 「なんて愛らしいんだ」
 誰かが遠くで話してる。白い霧の渦巻く彼方で。
 「俺が忍び込んだあの亡命フランス人の家にあった、人形そっくりだ」
 「そして、わが従妹、エリザベスの部屋にあった陶器製の人形ともな。フランス人形というものはみんな同じ顔をしているんだ。ただし、この、青みがかった銀色の短めの髪は、彼女の好みだったけどな」
 別の声が応じる。前の声がくぐもって低いのにくらべて、若々しく張りのあるこえだ。
 それにしても、誰のことを話してるのだろう。
  「ほんとうなんだな。こんな可愛い子が、俺の花嫁になってくれるのだな。怖がられ、嫌われ、たったひとりの同類もない、呪われた運命のこの俺に、もうひとりの人造人間の仲間ができるんだな。ヴィクトール、俺はあんたに誓ったように、この子を連れて人里から姿を消そう。世界の果てに行ってふたりだけで静かに暮らすのだ。ヴィクトール、いや、フランケンシュタイン博士、あなたを創造主と讃えながら」
  「私はただ、助手をつとめただけだ。本当に創造主の名にふさわしいののは、ここにいるアグリッパ先生の方だよ」
  「ゴーレムよ」第三の声が低く響く。ひどく年老いた感じの声。「このお人形さんがほんとうにお前の花嫁になるかは、お前しだいだ。能力はお前に劣らぬとはいえ、魂は見かけ通りに繊細で感じやすい。」
 「アグリッパ先生、ゴーレムというのはやめてくれ。そうだ、ヴィクトール、この子を何て呼べばいいんだ」
 「エリザベスはお気に入りの人形を、ミニヨンと呼んでいた。それがいい」
 「ミニヨン?」とアグリッパ先生の声。「それは男の子の名ではないかね」
 「彼女は、以前から、ワイマールの詩人ゲーテと文通していたのですよ。で、そのゲーテが書いている長編小説のヒロインの名がミニヨンというのだといって、気に入って、自分の人形の名にしたらしいのですね。」
 「ミニヨン、ミニヨン、なんてステキな響きの名なんだ。そうだ、ヴィクトール、アグリッパ先生、この俺にも、もっとちゃんとした名を付けてくれ。ゴーレムなんかでなくって‥‥」
 「フランケンというのはどうじゃね。お前の創造主ヴィクトール・フランケンシュタインの一族の名から取って」と、アグリッパ先生。
 「フランケン。気に入った。フランケンとミニヨンで、新しい種族のアダムとイヴになるんだ!」
 「シーッ、この子がめざめる」

 白い霧が晴れた。
 三つの顔が覗きこんでいる。
 真ん中には、若々しくて彫の深い、知性的な顔。深い紺碧の両の瞳に、人形めいた顔が小さく映っている。青みがかった銀色の短めの髪。黒い瞳。わたしだ、と一目で直覚した。
 同時に、わたしは魅了された。わたし自身を映し出す紺碧の瞳に。瞳の持ち主の青年、ヴィクトールに。
 「目を開いたぞ。黒い瞳。夜空に星を散らしたような。なんて神秘的なんだ‥‥」
 くぐもった野太い声がした。ヴィクトールの右側から覗きこんでいるのは、巨大な顔だった。
 そのとき受けた印象を、今、正確に述べるのは難しい。
 一言でいえば、不調和だった。
 目、口、鼻と、ひとつひとつは整っている。それなのに全体の印象は、デタラメに組み合わせた、といったものだった。おまけに、額から頬の片側にかけて、大きな縫い目が走っている。
 「待て、ゴーレム、いや、フランケン。怖がらせてはいかん」
 声とともに、左隣から覗きこんだのが、アグリッパ先生だろう。
 白いもじゃもじゃの髪と白い髭。落ち窪んだ眼窩の奥から、底知れない叡智を秘めた灰色の瞳が、こちらを見据えている。たいへんな高齢らしい。 
  なぜかわたしには、このアグリッパ先生を知っている、という気がした。
 同時に、ここに居るはずのない人、居てはいけない人、という気もした。
 なぜなの、この人の何を知ってるの?
 記憶のなかをまさぐっていると、突然、
 ーー脳内装備型百科事典、エンセファロペディア起動しますーー
 耳の奥に囁く声があった。続いて声が次のような情報を告げる。
 ーーコルネリウス・アグリッパ(1486-1535)。ルネサンス期ドイツの魔術師、人文主義者、神学者、法律家、軍人、医師。--
 1535年に死んでる?では、今は何年?
 --1793年ーー
 エンセファロペディアが即座に答える。
 するとこのアグリッパ先生は、300歳を超えてる。

 わたしは混乱した。それに、この脳内装備型百科事典ってなに?なぜこんなものが頭のなかで囁くの?
 答えを探したが、エンセファロペディアは沈黙してしまっていた。

 「ミニヨン、起きられるか?」
 ヴィクトールがベッドの横に回り、わたしの背に手を当てて上体を起こす。
 しだいに部屋の様子が分かってくる。
 部屋は円筒型をしていて、ちょうど真ん中にわたしの寝ていたベットがある。
 壁全体が、雑多な計器類や太いパイプで覆い尽くされている。天井にもパイプがのたうっている。
 そこから何十本もの管が下りてきて、ベッドを囲んでいる。
 床には血の付いたガーゼが散乱し、それらの管が、ついさっきまでわたしの体につながれていたことを示していた。

 改めて、わたしはこの実験室で作り出された、人造人間なんだと実感する。
 「ミニヨン、立てるか。ベッドから降りて自分の足で立ってごらん」
 差し出されたヴィクトールの腕につかまって、ベッドからソロソロと降りる。
 足を床に向かって伸ばす。長い白い布が足首まで隠しているのが見える。
 と、足先に履物が差し出される。大きな手。フランケンだ。巨体に似合わず、細やかな心遣いができるらしい。
 なぜか、警戒の念が胸に萌す。

 散らかった床を踏みしめて、今やわたしは三人に向かい合って立っていた。
 ひときわ圧倒されるのは、右側のフランケンの巨体だ。何センチあるのかしら。
 即座にエンセファロペディアが答える。
 ーー246センチ。
 正面のヴィクトールは?
 ーー188センチ。通常の男性としては高い方。
 左側のアグリッパ先生は?
 ーー170センチ。加齢で前かがみになっているせいもある。
 では、わたしは?
 ーー178センチ。女性としてはかなり高い。

 「なんて可愛いんだ、本当に人形そっくりだ。ミニヨン、俺の花嫁!」
 フランケンが、大きな声を轟かせながら接近する。
 「まて、フランケン、怖がらせてはいかん!」
 アグリッパ先生の制止を無視して、わたしの肩をつかむ。反射的にのがれようとしたけれど、物凄い力に動けない。
 「アーアウ、アウ」
 嫌ですと言ったつもりが、声にならない。
 「どうやら会話機能に障害があるようじゃ」と、アグリッパ先生。
 「そんなはずは。フランケンと同じ仕様なのに」と、ヴィクトールの声。
 巨大な恐ろしい形相が近づく。
 口づけするつもりだ、この怪物は‥‥

 わたしは、ありったけの悲鳴を上げる。
 「キャアアアアアアアアア」
 思いっきり怪物のぶ厚い胸を突き飛ばす。
 次の瞬間、信じられないことが起こった。
 「グアーッ」
 物凄い叫びと共にフランケンの巨体が吹っ飛び、向かい側の壁にぶつかると、背から半分めり込んでしまったのだ。
 「ミニヨン、何てことを、なんて凄い力だ!」
 「これは想定以上のパワーじゃわい!」
 「う、うう~、ミニヨン、ミニヨン!」

 怒り狂ったフランケンの声を後に、わたしは反対側の出入口に突進した。
 鍵がかかっていたが、ひと蹴りするとドアは紙細工のように破れた。
 建物の外はすぐ、崖になっている。
 夜明けの薄闇を通して、はるか下に道路がうねうねと続いている。
 その道路を、馬車の列がノロノロと進んでいく。
 四頭立ての大型の馬車が合計5台。ジプシーかしら。
 そうだ、あの馬車のなかに匿ってもらおう。
 わたしは、今いる崖の端から先頭の馬車の屋根からまでの距離を目測する。
 即座にエンセファロペディアが立ち上がって、耳の中で囁く。
 ーー垂直距離70メートル。水平距離30メートル。あなたの運動能力からして、ひとっ跳びも可能。
 
 わたしはためらわず、身を断崖から躍らせた。
 「ミニヨン、俺の花嫁、ミニヨ~ン」というフランケンの、怒りの中にどこか悲しみの混じった叫びを後にして。
   

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2019年4月23日 (火)

夢の現象学(158):ノートルダム大聖堂火災の翌朝に見た火事の夢の巻

■2019年4月17日(水)。明け方、鮮明な夢を見た。 家の二階にいた。どこの家...

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2019年4月 5日 (金)

ハルヒ神学vs.長門神学(5):「宇宙人三人娘の合唱」をAI(Orpheus)で作曲したの巻/フッサール心理学(54):『人文死生学宣言』書評出るの巻

■AI自動作曲に挑戦するの巻  長門詩篇第Ⅱ話(銀河の彼方に帰りたい、帰れない)...

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2019年3月21日 (木)

電子ジャーナル『こころの科学とエピステモロジー』創刊のお知らせ/夢の現象学(157):ウルムウルムと鳴きながら転げまわる何ものかの巻

■2019年3月15日。新感覚のオープンアクセスジャーナル『こころの科学とエピス...

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2019年2月18日 (月)

長門詩篇Ⅶ「ミニヨンの物語、そして謎の吟遊詩人」

長門有希詩篇Ⅵから続く>

 

■長門有希詩篇Ⅶ「ミニヨンの物語、そして謎の吟遊詩人」

〔紹介 アニメとラノベでヒットした『涼宮ハルヒの憂鬱』(原作:谷川流)の二次創作です。北高一年生の文芸部員で、その正体は銀河を統括する情報統合思念体が送り込んだ対人コンタクト用ヒューマノイド・インターフェースの長門有希が、運命と夢とあえかな恋とを歌い上げます。前回は、『ヴィルヘルム・マイスターの修業時代』(ゲーテ)に読みふけっているうちに眠ってしまい、夢を見始めたところで終わっています。〕

 

●サーカスの少女ミニヨンの回想

 いつ、どこで生まれたかも分からない
 父と母の顔も名も知らない。
 自分のほんとうの名前さえ知らない。
 気がついたら旅回りのサーカス団にいて、ミニヨンという名で呼ばれていた。

 微かに、夢のように思い出せることは、
イタリアのどこか、湖の畔に住んでいたこと。
 レモンの花が咲き、暗い木陰には黄金色のオレンジが燃えていた。
 青い空からやわらかい風がそよいでいた。
 ミルテは静かに、月桂樹は高くそびえていた。

 あたしが暮らしていたのは、湖畔の漁師の家だった。
 母親が近くの町に住んでいたけど、めったに会わせて貰えなかった。
 母親は罪深い女で、お前は罪の子だからということだった。
 侯爵家の次男坊の修道僧と通じて生まれたのがお前だから、ということだった。
 
その父親は山の彼方の修道院に、今も囚人のようにして生きているというのだった。

 漁師の夫婦は親切だったけど、村の子どもたちはあたしを見ると、罪の子、罪の子、と言って石を投げて来た。
 青みがかった銀色という風変わりな髪の色、そして人形のような表情のない顔が、罪の印だというのだった。
 あたしは子どもたちを避けて、湖岸を回って反対側に建つ大きな家の玄関先で過ごすようになった。
 円柱と円柱の間から奥をのぞくと、広間はかがやき、いくつもある小部屋がきらめいていた。
 円柱に刻まれている男女一対の大理石の像を、あたしは、聖母マリア様の像とまだ見ぬお父様の像だとひとり決めしていた。
 向かい合っていると大理石の像たちは、「かわいそうな子、どんな目に遭ったの」と、問いかけてくるのだった。

 そんなある日の夕方。いつものように円柱の像とことばを交わしていると、背後に近づく乱れた靴音があった。
 振り返ると、数人の男たちが迫っていた。逃げる間もなく、頭から布をかぶせられ、抱えられて連れ去られた。
 近くに待機していたらしい馬車に積み込まれると、布が取り去られ、何人もの髭面がのぞき込んだ。
「まちがいない、この子だ。噂に聞いた通りのミニヨンだ」
「青みがかった銀色の髪、大きな黒い瞳。こんな子、見たことないぜ。どれだけの値段になるか見当もつかないくらいだァ」
「こりゃ、あのサーカスの親分が喜ぶぜ。一座の看板の舞姫を育てたいと言ってたからな」
 馬車は夜通し走り、(後で知ったのだけれど)フランスの国境に近い町はずれで、サーカスの一座に引き渡された。
 親方はフランス人らしく、あたしの顔を見ると、
「ミニヨン、ミニヨン」と叫んで狂喜した。
 これも後で知ったけれど、ミニヨンとはフランス語で可愛い子ちゃん、という意味だった。

 こうしてあたしは、本当の名前も忘れ果て、ミニヨンと呼ばれて旅回りのサーカス団の中で育てられることになった。

 四頭立ての馬車を4台も5台も連ねた、大きなサーカス団たった。
 30人ほどの団員は、イタリア人フランス人スペイン人とさまざまだった。あたしのように、幼くして売られてきた子ども達も何人かいた。
 サーカス団での待遇は悪くはなかった。
 ミニヨン、ミニヨンと言って可愛がって貰えたし、
 早くから歌と踊りと玉乗りを教え込まれたけど、
 同じ年頃の子ども達がやらされているような危険な軽業は、顔に傷が付くからという理由で免除された。
 水仕事や馬の世話など、手の荒れる雑用も免除された。

「俺はお前を、一座の花形の舞姫に育てあげたいんだ」
 親方は、舞台で華やかに踊っている看板の踊り子に目を注ぎながら、少し声をひそめ気味にして言うのだった。
「あの、フィリーナを見なよ。申し分なく美人で愛嬌もあれば歌も踊りもうまい。玉乗りだって達者だし綱渡りもできる。けど、何かが足りないんだ」
 そしてあたしに目を向けて、言葉を継いだ。
「お前をひとめ見て、それが分かった。あの娘には品格がないんだ。お前にはそれがある。侯爵家の姫君にしてもおかしくないほどの気品というものがな。ミニヨン、あと5年もすればお前は女になる。パーッと花がひらくようにな。そうなったらこのサーカス団も、世界一になるってエもんだ。なにしろ、落ちぶれてサーカスに身を売った侯爵家の姫君が歌って踊って玉乗りをするんだからな」

●「男爵」の魔手は逃れたけれど「自動人形」へ格下げされて‥‥

 5年が過ぎた。
 あたしは歌も踊りも上手になった。背も伸びた。
 フィリーナがあたしを脅威と感じ始めていることが、何となく分かった。
その間にもサーカス団はフランスの南部をめぐり、スペインに入り、またフランスに引き返してパリに暫くとどまって、次はドイツを目指すということだった。
 ドイツとの国境に近い、天を突くように高い大聖堂のある町で興行をしていた時のこと。
 舞台で踊るあたしを、連日、かぶり付きで舐め回すように見ている男の人がいた。何となくお忍びの貴族らしい気がした。
 ある日、親方はあたしを呼んで、言った。
「聞いて喜べ。男爵様の目に留まったぞ。お前もいよいよ女になるんだ。ちょうどおとつい、初めての月のものがあったと、ジェリーに聞いたしな」
 不安げなまなざしを向けるあたしに、親方は畳みかけた。
「手付金は貰ってる。だから、お館に行って渡された金はみんなお前のものになるんだ。自分の財産ができるんだぞ。フィリーナだってそうやって相当貯めこんでやがる。それで自分を身請けして、パリでつかまえた男といっしょになって商売を始める算段らしいがな」

 何も分からないまま、夜になって迎えにきた馬車に乗せられて、館に連れていかれた。
 かがり火に浮かび上がった玄関の円柱の彫刻は、記憶にある湖畔の家を思い起こさせた。
 けれども、寝室に連れていかれ、入ってきた「男爵」に着衣を剥がれそうになると、羞恥と恐怖と嫌悪がいっぺんに襲ってきた。
「嫌です、やめて下さい!」
「なにをいうんだ、この玉乗り娘が。いくら払ったというんだ」
 あたしは力任せに押さえつけてくる腕に噛みついた。
「イタタ、この淫売っ子が離せ!」
 腕をねじ上げられた。目が回った。手足が勝手に動き、痙攣した。口から泡を吹いた。
 ひきつけを起こしたのだった。
 慌てて男爵は人を呼んだ。

「お前はまだ、女になっていなかったのだよ」
 医者を帰すと、男爵は言った。「あのサーカスの団長め。いい加減なことを言いおって」
 そして、金貨の入った小さ目の袋を渡して言葉を継いだ。
「約束のお金の4分の1だけ渡しておくよ。あと一年たてばお前は確実に女になる。そうしたらまた迎えを出す。なんといっても私はお前を気に入ってるんだからな。青みがかった銀色の珍しい髪の色、黒い大きな瞳、陶器の人形のような整った顔。あのルネ・デカルトの有名なフランシーヌ人形もかくや、ていうものだ」

 男爵の予言は実現しなかった。
 月のものはそれっきり止まってしまった。
 膨らみかけた胸も、それ以上大きくならなかった。
 背丈は少し伸びたが、それがかえって、少女というより少年っぽい感じを与えるようになった。
 団員の同じ年頃の少女たちが日増しに女らしくなっていくのに引き比べ、あたしはいつまでたってもちょっと開きかけた蕾のままだった。

 親方の落胆と怒りはたいへんなものだった。
「いったい何時になったら女になるんだ、エエッ? お前にいくらはたいたと思ってるんだよ!」
 そのうちに抜け目のない親方は、あたしの新しい売り込み方を思いついたらしかった。
 髪を短く切られ、少年の服装をさせられた。
 エッグダンスという、少年のやる踊りを覚えさせられた。
 これまた少年が習うものとされていたギターの練習も命じられた。
 そのうちに、しばらくパリに戻ったかと思うと帰ってきて、奇妙なことを言い出した。
「パリじゃ、ヴォ―カンソンっていう時計師が大評判だ。背中のネジを巻いただけで、ぜんまい仕掛けで踊ったり笛とかギターを演奏したりの人形を作ってな。オートマトンって言うらしいんだが。妙ちきりんなこったが、ヴォーカンソンの自動人形〔オートマトン〕はみんな男の子なんだ」
 そして、あたしにチラッと目をやって、周囲に言うのだった。「このミニヨンそっくりの自動人形もあったぞ。それで思いついたんだが、背中に大きなネジのついた服を作ってこいつに着せろ。それでギターを弾きながら踊らせるんだ。わがサーカスの看板オートマトン、ミニヨン少年のギターと踊りでござ~い、てなわけでな」
 団長の思いつきは実行された。

●運命の人との出会い

 サーカス団がドイツに入って二年目のこと。
 その年の冬は経験したことのないような厳しいものになった。
 ストーヴの傍にいても、体のふるえがとまらなかった。
 あたしは風邪をこじらせて、春になっても小さな咳をいつもするようになった。
 イタリアへ行きたい、帰りたい、と心から思った。
 故郷の町がどこかも分からない。
 両親の顔も名も知らない。
 それどころか自分の本当の名も知らない。
 それでも、思い出の中の湖畔の風景は忘れることがなかった。
 レモンの花が咲き、暗い木陰には黄金色のオレンジが燃えていた。
 青い空からやわらかい風がそよいでいた。
 ミルテは静かに、月桂樹は高くそびえていた。
 行きたい、帰りたい、南の国へ。
 想いはつのった。

 サーカス団から脱走してでもイタリアをめざしたかった。
 南の地平に白い壁のように聳えるアルプスを越えてでも。
 おそろしい山賊や人さらいの噂が絶えることがなく、
単身向かっても、もっとひどい境遇に沈められることは火を見るよりあきらかだったけど。

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 やがてサーカス団は南ドイツの大きな町についた。
 そこで一週間ほど興行を打つということだった。

 その町でのことだった。
 運命の人、ヴィルヘルム・マイスターさんと出会ったのは。

【図は手塚治虫作「ミニヨン」(1957)より、南ドイツの町で踊るミニヨン。『手塚治虫マンガ文学館』(ちくま文庫、2001, p.86

 

 

 

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2019年2月15日 (金)

長門詩篇Ⅵ「また図書館に。あるいはサーカスの少女ミニヨンの歌」

長門有希詩篇Ⅴから続く>

■長門有希詩篇Ⅵ「また図書館に。あるいはサーカスの少女ミニヨンの歌」

〔紹介 アニメとラノベでヒットした『涼宮ハルヒの憂鬱』(原作:谷川流)の二次創作です。北高一年生の文芸部員、正体は銀河の彼方から送り込まれた生体アンドロイドである長門有希が、その孤独な運命と夢と読書の歓びとあえかな恋心を歌い上げます。今回は北高に入学して二か月目ごろのお話です。〕

 ある日の授業風景、現国

わたし、銀河を統括する情報統合思念体に送り込まれた対人コンタクト用ヒューマノイド・インターフェースである長門有希が、教室でどんなかということは、クラスが違うので涼宮ハルヒらSOS団のメンバーにはあまり知られてはいない。

まだ眼鏡っ娘だった頃の、ある日の授業風景から始めよう。

その日は、現国の時間が始まる1分前になると、教頭先生が見慣れぬ若い女の先生を連れて教室に入ってきた。
 そして、担当の先生が予定より早く産休に入ったので、急遽、現国は今日からしばらくの間、3月に関西学院大学を卒業したばかりの森先生に担当していただくと言って、出て行った。

新しい先生は、「森園生」と黒板に自分の名を大書すると、教育実習でなく本当に教えるのは今日は初めてですけど、頑張りますのでよろしくお願いします、と頭を下げた。

余計なおしゃべりはしそうもない代わりに、にこやかな笑みを絶やさない、芯の強そうな美人の先生だった。男子生徒が嬉しそうな顔をしているのが分かる。

わたしには、この名前にも顔にも、見覚えがある気がしたが、はっきり思い出せなかった。
 三年前の七夕の夜に、三年後の異時間同位体の“わたし”と同期して得た未来の記憶は、その後の2年8か月にもわたる休眠期によって、細部が失われてしまっていたから。
 その方がいい。未来のことなど知らない方がよいのだから。

「今日は、田代先生からの引継ぎで、35頁の近代詩のところからです」
   指示に従って生徒たちが、ガサガサと教科書をめくる。

「ミニヨンの歌」と大きくあって、横に「ゲーテ作、SSS訳」とある。
   頁の下部に、「明治22年発表。SSSは新体詩の運動を始めた新声社の略で、実際の訳は森鴎外の妹、小金井喜美子とも、鴎外その人だとも言われている」と、細かい文字で註が付いていた。

「明治の訳詩かァ、つまんなさそう‥‥」後の席で女生徒が、小声でつぶやくのが聞こえる。
 「どうせなら尾崎豊にでもすればよかったのに」と、ジャズやロックの歴史に詳しいことが自慢の男子生徒の声。
 じっさい、頁の上の詩は、わたしの脳内装備型日本語変換辞書にもなじみのない文語調で書かれていて、高校生が親しめるものではなさそうだった。

「まず、私が読みます」といって森先生は、涼やかな声で三連からなる詩を、よどみなく読み上げた。

「このミニヨンの歌は、ゲーテの『ヴィルヘルム・マイスターの修業時代』という長い小説に出てくる詩です。
 舞台は十八世紀のドイツで、ミニヨンは幼い時にさらわれてサーカス団に売られた可哀そうな少女です。
 親方に鞭で打たれて苛められているところを、主人公のヴィルヘルムという青年が救い出し、お金を出してサーカス団から解放してあげます。
 お礼にミニヨンがヴィルヘルムに歌って聞かせたのがこの詩で、思い出の中の故郷イタリアのことを歌って、ウィルヘルムに一緒に行きたいと誘うのが、全体の意味です。
 最後の「行かまし」というのは、「行きたいの」という、願望の意味ですね」

「くっさー。サーカスに売られて苛められる少女だって。大昔の少女漫画まんまじゃん」と、背後で小さく別の女子生徒の声。
 「大正ロマン、てところね」と、少女マンガ通を自認するまた別の女子生徒が応じる。

森先生が続ける。
 「この詩は名訳ですけど、古すぎで皆さんにはすぐに良さは分からないと思います。もっと新しい良い訳が出ているので、皆さんに読んでもらうことにします。」
 そう言うと、コピーを取り出し、配り始めた。
 行きわたったところを見計らって、座席表を眺め、なぜかわたしの方を見て、言った。
 「長門有希さん、いま配った新しい訳を読んで下さい」

教室が一瞬、ざわついた。
 わたしは構わずコピーを持って立ち、読み始めた。

 ●「君よ知るや南の国――」の朗読で文学少女長門有希のイメージが定着する

 〔ミニヨンの歌〕

君よ知るや南の国。レモンの花咲き、
 暗き木陰に、黄金なすオレンジ燃え、
 青き空より、やわらかき風のそよぎ、
   ミルテ静かに、月桂樹[ローレル]は高くそびゆる。
   君よ知るや、かの国を。
         かなたへ、かなたへ、
   おお、いとしき人よ、君と共に行かまし。

君よ知るやかの家を、円柱[まるばしら]に屋根は安らい、
   広間はかがやき、小部屋はきらめく。
   大理石[マーブル]の像たちは、我[あ]に問いかく、
   哀れなる子よ、いかなる目に遭いしかと。
 君よ知るや、かの家を
   かなたへ、かなたへ、
 おお、我[あ]を護[も]る人よ、君と共に行かまし。

君よ知るやかの山、雲の通い路を。
 霧のなかに、驢馬は道を求め、
 ほこらには、年老いし竜の住み、
 岩はそびえ、滝はあふれ下る。
 君よ知るや、かの山を。
   かなたへ、かなたへ、
 おお、父よ、われらが道を、ともに行かまし。


 読み終わると、不思議な沈黙が教室を支配した。
 わたしは着席してよいか、指示を待って森先生を見る。
 夢を見ているような顔をしていたが、我に返ったように先生は言った。
 「素晴らしい読みでした、長門さん。まるでミニヨンが乗り移ったみたいよ!」
 そして、パチパチと手を叩いた。
 拍子がパラパラと生徒たちの間にも起こり、やがて全員に広がった。「さすが文芸部員」といった声も上がった。

どうして。普通に感情を交えずに、淡々と読んだつもりだったのに。わたしは席に座りながら思った。
 すると、おしゃべりな脳内装備型日本語変換辞書が、勝手に立ち上がって囁いた。

 ――嘘。あなたは途中から、図書館のことを思い出していたの。
  この前の日曜に、初めてのSOS団野外活動で“彼”に連れられて行った図書館のことを。
  あの時あなたは、まるで夢遊病患者のようなステップでふらふらと本棚に向かって歩き出した。
  そして厚い哲学書を手に取ると、三時間もの間、その場で立ったまま読みふけった。
  しまいに“彼”が来て、涼宮ハルヒが集合時間がとっくに過ぎていると電話で怒りまくっているので、早く駅前に戻らなければならないと促した。

Nagatokyon_toshokan あなたは、床に根が生えたように動かなかった。
  仕方なく“彼”は、カウンターに行ってあなたの貸し出しカードを作ってもらい、読んでいる本を借りてあげた。
  その図書館のことをあなたは思い出していたの。
  「南の国」も「かの家」もあなたの中では図書館で、「君」も“彼”のことだったのに――

勝手な解釈しないでよ。わたしは脳内辞書を黙らせた。

でも、この日から、クラスでのわたしへの風向きが、微妙に変化したのは確かだった。
 何人か、文芸部に入部したいと言ってきた男子生徒がいた。
 やや緊張気味に、憧れるようなまなざしを向けて。
 わたしは「今は募集していない」と素っ気なく答えた。
 文芸部室はすっかりSOS団の巣窟になっていて、放課後になるとハルヒが朝比奈みくるにコスプレを演じさせようと大騒ぎしていたから

にべもなく断られても何人かの男子生徒は、憧れるようなまなざしを向け続けた。
 どうやら、「眼鏡キャラ、無口キャラ、神秘的な無表情系」というミステリアスな文学少女のイメージが、定着したようだった。

でも、そののち1,2週間で大きな出来事が次々に起こり、眼鏡は失くすわで、そんなことは念頭からなくなってしまった。

 

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2019年1月20日 (日)

長門詩篇Ⅴ「パンドーラの歌」

〔紹介 アニメとラノベでヒットした『涼宮ハルヒの憂鬱』(原作:谷川流)の二次創作です。北高一年生の文芸部員で、その正体は銀河を統括する情報統合思念体が送り込んだ対人コンタクト用ヒューマノイド・インターフェースの長門有希が、運命と夢とあえかな恋とを歌い上げます。〕

長門有希詩篇Ⅳから続く>

■長門有希詩篇Ⅴ「パンドーラの歌」

  どこか知らない、乾いた大地を旅していた。
 白茶けた岩山と岩山の合間に緑の草地がところどころに拡がり、羊や牛がのどかに草を食んでいた。
 遠く、青い水平線が望まれることもあった。
 少し広い牧草地と岩山の間には、たいてい泉か井戸があり、岩山に隠れるようにして煉瓦の白茶けた家が何軒か固まって、村落を作っていた。
 わたしは、ある時は何人かの集団で、またある時は一人っきりで、村から村へと渡り歩いていた。
 歩き通しのこともあれば、農夫の荷車に乗せて貰うこともあった

 村に着くと、好奇心で目を輝かせた村びとが、大人も子どもも、老いも若きも集まってくる。わたしは広場でタンバリンを打ち鳴らして踊りながら、大地と豊穣の女神デーメーテールや愛と婚姻の女神アフロディーティーに捧げる歌を歌った。

 その後、求めに応じて占いをする。わたしの占いは良く当たると評判だった。
 そのまま村の有力者の家に泊まることもあったが、たいていはそこで春をひさぐことになるのだった。
 それも、歩き巫女の仕事の内だった。

 そうやって村から村を渡り歩きながら、わたしはパンドーラという名の、伝説的な巫女の消息を求めていた。

 パンドーラは、何千年も昔から生きているという。不老の美しさを保ちながら。
 ある説によると、パンドーラこそ、最初の人間の女だという。
 今でも、どこかの廃墟となった神殿の奥深く棲むが、実際にあったという人は誰もいないという。

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 どれくらいの月日が、そうやって流れたかは分からない。ある日、とうとう、海に面した断崖に立つ崩れかけた神殿の奥で、わたしはパンドーラに会ったのだった。

 「わたくしの名を、久方ぶりに呼ぶのは誰ですか‥‥」
 神殿の奥の暗がりから、立ちのぼる香煙をかき分けるようにして長身をあらわした巫女を見て、わたしは小さく叫んでいた。
 「朝比奈みくるさん!?」
 「その人のことは知りません」
 巫女は平静に言葉を継いだ。「でも、美の理想は、どんな時代でも似たようなものになってしまうのです。このパンドーラは、元々、理想の美を体現せんものと、オリュンポスの神々によって造型されたものですから‥‥」
 そして、憂いを含んだ目でわたしを見て、「して、何用あって、このような荒れ果てた地に、世に忘れ去られた巫女のところに、来たのです?はかなげな乙女よ」
 「乙女などではありません‥‥」
 わたしは、昨夜も村で、自分の体に散々加えられた、おぞましい仕打ちの数々を思い起こして顔を赤らめながら、答えた。「春をひさぐのをなりわいとする、ただの卑しい歩き巫女‥‥」
 そして、聞こえないような小声で付け加えたーー「はかなくもないのだし‥‥」
 伝説の巫女は、じっとわたしに目を注いで、少し悲しげに言った。
 「そのようなことを言うものではありません。黒い瞳に青みがかった銀色の髪をした乙女よ。あなたの闇に星を鏤めたような瞳の奥には、無窮の宇宙が広がっているものを。見ていると吸い込まれそうな。ーーして、何用ですか?」 
 「パンドーラさま。わたしは知りたい。わたしはなぜ、今、ここにいるのかを。わたしは一体、誰なのかを」

 わたしは跪くと、堰を切ったように語り始めた。
 「気がついた時にはもう、わたしは、15か16歳の女として、旅芸人の一座に加わって村から村へと渡り歩いていました。
 わたしには、親も兄弟姉妹もありません。わたしを拾ってくれた一座の親方は、わたしが空から降ってきた、と言っていたものです。
 ですからわたしには、子どもの頃の記憶がありません。
 踊り子として一座と共に過ごすうちに、わたしには予言の力があることが分かってきました。日ごとに煩わしく言い寄ってくるようになった親方の息子からのがれたくもあって、歩き巫女の一行に身を投じました。
 先輩の巫女たちの中には、天涯孤独な上に内気で無口なわたしを憐れんで、妹のように可愛がってくれる人もいたのです。
 でも、4、5年もたつと、その人たちからも別れなければならなくなりました。
 わたしが、齢を取らないからです。
 仲良しだった友だちが、自分だけが齢を取ってゆくのに気づくと、わたしに嫉妬の目を向け、しまいに魔女だの化物だのとののしるのです。
 そのうちに、はるかな神代から、人でありながら不老の若さ、永遠の美を留めているという、最高の巫女、パンドーラさまの噂を聞きました。
 あなたこそ、わたしが誰なのか、なぜここにこの時代にいるのかを、教えていただける方ではないでしょうか」

 「憐れな乙女よ」パンドーラは、跪いたわたしに歩み寄り、手を取って言った。
 「この世におけるそなたの使命を教えるには、まず、わたくしが何者であるかを伝えねばなりません。でも、この時代の人々の言葉も概念も、あまりにも未成熟です。
 ですが、楽の音に、歌に、乗せれば伝えることもできましょう。
 アフロディーティの歩き巫女よ、立ちなさい。タンバリンを取って踊りなさい。
 わたくしが歌い、もの語るのに合せてーー」

 言われるままにわたしは背に負ったタンバリンを手に取って、シャラシャラと打ち振り踊り始めた。
 澄み切った歌声が、パンドラの紅い唇から流れ出す。

〔パンドーラの歌〕

我が故郷〔ふるさと〕は銀河の彼方
光が尽き光の生まれるところ
エックス線星は歌い
超新星は紫の輝きを放ち
渦状星雲が群れ集い
ブラックホールが音もなく崩壊する
重力が生まれ重力の尽きるところ

銀河の彼方からわたくしは来た
宇宙開闢以来在る究極知性
情報統合思念体の、最初の対人コンタクト用
ヒューマノイド・インターフェースとして
獣と変わらぬこの星の人類に
知識と技芸を授けるために

こうしていつか人間たちは

Pandora_2鳥獣を狩り野苺を摘むのをやめ
牛と羊を飼い畑を耕すようになった。
洞窟を出て石造りの都市に住み
棍棒の代わりに青銅の剣と鋼の鏃で武装した。
天体を観測して暦を作り
三角測量を覚えてピラミッドを建てた。

けれど農耕は狩りの生活より労働がきつく
人口の密集した都市では疫病が流行した
富める者、力ある者は
貧しき者、力なき者を虐げ
巨大な軍隊を作りあげて圧政を敷いた
お互いがお互いを羨み、そしり
虚偽と巧言とが真実と廉直を覆い隠した
やがて人々はわたくしパンドーラこそ
あらゆる災厄をもたらした元凶よと
なじるようになった。

嫉妬深いオリュンポスの神々が
人類を懲らしめるべく、ひそかに
あらゆる悪徳と禍の種を詰めて
地上に送った開けるべからずの箱を
好奇心に負けて開いたパンドーラこそは
人類に災厄ををもたらした禍〔わざわい〕の女だと。

わたくしは人々の目から姿を隠し
神殿の廃墟の奥にひとり住まうようになった。
情報統合思念体はもはや人類に介入しようとせず
観測だけにわたくしの役目を限定した。
オリュンポス山から吹き下ろす風の音と
エーゲ海の波濤の響きを聞きながら
わたくしは生き続け、そして待った。

パンドーラの箱にただ一つ残った
最後の贈物を受け取るべき者の訪れを
わたくしに続く二体目の対人コンタクト用
ヒューマノイド・インターフェースが
黒い瞳と青みがかった銀色の髪の
小柄な体、薄い胸の
可憐な乙女として訪れる日をーー

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2019年1月19日 (土)

長門詩篇Ⅳ「運命が扉を二度叩いた日(後篇)」

〔紹介 アニメとラノベでヒットした『涼宮ハルヒの憂鬱』(原作:谷川流)の二次創作...

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2019年1月17日 (木)

夢の現象学(156):続きの夢で疑問への解が与えられるの巻/ハルヒ神学vs.長門神学(4):ヒロイン論

■2019年1月12日。世田谷の家の二階にいた。  北窓に虫がいっぱいたかって...

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2019年1月 8日 (火)

長門詩篇Ⅲ「運命が扉を二度叩いた日(前篇)」

〔紹介 アニメとラノベでヒットした『涼宮ハルヒの憂鬱』(原作:谷川流)の二次創作...

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2019年1月 6日 (日)

夢の現象学(155):初夢はメモできず、インターネットメディアの取材に応じたような記憶の巻

■2019年1月1日。夢を見たが、寒い季節の通例でメモを怠たり、記録は3時間後。...

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2018年12月12日 (水)

長門詩篇Ⅱ「銀河の彼方にかえりたい、かえれない」(宇宙人三人娘の合唱)

〔紹介 アニメとラノベでヒットした『涼宮ハルヒの憂鬱』(原作:谷川流)の二次創作...

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2018年12月 8日 (土)

夢の現象学(154):夢二題/ハルヒ神学vs長門神学(3):涼宮ハルヒは自我体験の夢を見たか(続編)

■2018年12月3日(月)早朝。  夢を見た。  どこかの学会か研究集会に...

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2018年11月27日 (火)

長門詩篇Ⅰ「わたしがこの惑星に舞い降りた夜」

〔紹介 アニメとラノベでヒットした『涼宮ハルヒの憂鬱』(原作:谷川流)の二次創作...

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2018年11月26日 (月)

夢の現象学(153):沖縄で見た夢と質的心理学会での人文死生学シンポジウムの巻/「長門詩篇」の構想の巻

■2018年11月25日。早朝。沖縄は名護市の名桜大学前のホテルで見た夢。  ...

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2018年11月21日 (水)

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■2018年11月20日明け方。夢を見た。最後の場面では高知からの列車に乗ってい...

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2018年11月19日 (月)

ハルヒ神学vs長門神学(1):涼宮ハルヒシリーズの結末を予想の巻/『春の夢』40年ぶりのポーの一族新作の巻

■今日から、新シリーズ「ハルヒ神学vs長門神学」を始めます。  これまでの、「...

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2018年11月13日 (火)

夢の現象学(151):またしてもハルヒ、というか長門物語に関係ある夢の巻

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2018年11月10日 (土)

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■見えてきた!長門有希の避けられない運命......  ブログの5つ前の記事「...

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2018年11月 9日 (金)

フッサール心理学(52):人文死生学研究会(番外編)のお知らせ

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夢の現象学(150):ハルヒワールドに何やら関係ある夢を見たの巻

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フッサール心理学(51):涼宮ハルヒは自我体験の夢を見たか

■涼宮ハルヒは自我体験をしたか? ハルヒワールドのことを考えながら歩いて...

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2018年10月 5日 (金)

夢の現象学(149):「現実世界での過去の夢」が「夢世界での現実の過去」になるの巻/大聖堂様式の三越のファサードで重量を支えるスフィンクスが立ち上がるの巻

■2018年9月22日(土)。早朝。(11月下旬のはずの)質的心理学会沖縄大会に...

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2018年9月14日 (金)

フッサール心理学(50):『涼宮ハルヒの消失』に感動し、「優しい忘却」の歌詞を掲げるの巻/コミュ障の現象学から見た長門有希

■劇場版『涼宮ハルヒの消失』をDVDで月曜の夜に見て以来、3日。いまだ感動から醒めやらずにいます。

 ことの発端は、『人文死生学宣言』(春秋社、2017)を共に編集した三浦俊彦氏から、新著の『エンドレスエイトの驚愕』(春秋社、2018)を贈られたこと。
 「涼宮ハルヒの憂鬱シリーズ」論なのですが、今までこのアニメシリーズを見たことがなく、それじゃ見なくちゃ、と世田谷に泊まり込みに行くたびにツタヤから借り出して、9巻目か10巻目。まがうことなき名作に出会ったのです。

 ハルヒシリーズは、宇宙人と未来人と超能力者しか興味がないという女子高生涼宮ハルヒが、退屈しのぎに超常現象を見つけ出すために結成した、SOS団という北高サークルが中心となって進行します。
 団員は他に4人ですが、語り手のキョンだけが普通の男子高校生で、他はハルヒの願望通り、宇宙人(長門有希)と未来人(朝比奈みくる)と超能力者(古泉)から成ります。宇宙の進行を乱す潜在能力を秘めたハルヒを監視するために、それぞれの「組織」から遣わされたのです。
 キョンはその正体を打ち明けられています。現にハルヒの巨大な潜在能力のせいで、閉鎖空間に閉じ込められて透明巨人が暴れたり、夏休みの期間が回帰して終わりなき夏休みになったりします。そのたびに、宇宙人と未来人と超能力者の必死の修復作業で元に戻るのですが、ハルヒだけは気づいていません。退屈な学園生活が続いていると思い込んでうんざりしているのです。だから「憂鬱」とタイトルについているのです。

■10巻目ぐらいに現れる『劇場版涼宮ハルヒの消失』では、ある朝、キョンが登校すると、ハルヒの姿がないばかりか、誰もハルヒも古泉君も知らない、ということになっている所から始まります。
 上級のクラスにいる朝比奈みくるに会いに行っても、SOS団のことなど知らない、と言われる始末です。

 やがてハルヒと古泉君は、北高ではなく別の高校の生徒になっていたことが分かります。やはり二人とも、SOS団のことなど知らないというのです。

 最後の望みをかけて、キョンはSOS団の部室に向かいます。そこは元々文芸部の部室でしたが、唯一の部員だった長門有希もろとも、「元の世界」のハルヒが乗っ取って、SOS団の部室にした部屋だったのです。
 ドアをあけると、居ました。眼鏡をかけた長門有希が、いつもの通り本に読みふけっています。無口で非社交的で鬱なキャラもそのままに。
 やがて、キョンは大変なことに気づきます。
 元々、長門有希の正体は、銀河を統括する情報統合思念体のヒューマノイド型端末だったはずです。ところが今や、人間になっていることに気づいたのです。無感情なアンドロイドだったはずが、感情豊かで内気な文学少女になっているのです。そして、「文芸部入部届」という書類を恥ずかしそうにキョンに渡します‥‥

■元の宇宙人長門有希が残していった手がかりを辿って、キョンにも真相がつかめてきました。
 SOS団の騒がしい団長、ハルヒのいないこの世界は、長門有希の巨大な能力によって元の世界から分岐した時間流だったのです。
 でも、何のために任務に背いてまでそんなことをしたのでしょうか。
 元々、長門の能力は三人の中でもぬきんでていました。その能力によって世界の崩壊を防ぎキョンを守ってきたのです。けれどもキョンの関心は派手なハルヒや朝比奈みくるに向かい、無口で無表情の長門の働きは当然視され、存在も無視されてしまっていたのです。
 そこに、アンドロイド型端末だった筈の長門の感情が、自我が目覚めたのです。
 きっと長門有希は、ハルヒのいない世界で、キョンに恋してみたかったのでしょう。
 でも、キョンは、元の、ハルヒとSOS団の、てんやわんやの世界の方を選びました。元の世界の長門がキョンに選択肢として残していった鍵を使って。
 せっかく長門有希が人間の少女として生き始めた世界は、こうして消え去ったのです。

■やがて感動のラストシーンが来ます。
 元のアンドロイドに戻った長門と並んで、雪が舞い出す中で、キョンは「ゆき」と口走ります。これまで長門有希を、「長門」としか呼んで来なかったキョンがです。でも、続けて、「ゆきが降ってる」と言うのです。
 この場面で長門有希役の茅原実里によって歌われるエンディングソングを引用しておきます。長門の切ない想いそのままの歌詞ですね。「消える世界にもわたしの場所がある」なんて。インターネット上では、この場面で泣きましたという記事が少なからず検索できますが、同感です(なんだかアンデルセンの「人魚姫」を思わせる話だし)。

「優しい忘却」
望むことは何?
わたしが問い掛ける
なにもいらない 嘘ではなかった
消える世界にも
わたしの場所がある
それをしらない 自分でさえも
閉じ込めた意識は
時を結び

Nagatoyuki_madobe_megane願いを繰り返す
また会うまで 忘れないで
巡る日々の中
わたしに残るのは
記憶 それとも 忘却だろうか
やがて世界には
眠りが訪れて
ひとり ひとりの あしたに帰る
選ばれた未来を
見送る扉
願いが叶っても
忘れないで 忘れないで
消える世界にも
わたしの場所がある
それを知らない 自分でさえも
思い出すまでは…

(作詞:畑亜貴
作曲:伊藤真澄
編曲:虹音
歌詞原案:谷川流
歌:長門有希[茅原実里])
(『公式ガイドブック 涼宮ハルヒの消失』ニュータイプ編、角川書店、2010、pp.172-173)
:
■「コミュ障の現象学」から見た長門有希
 三浦さんのような分析哲学的アプローチとは別になりますが、私は長門有希という魅力的なキャラに、始めたばかりの「コミュ障の現象学的当事者研究」の視点から*、深甚なる興味を覚えました。
  *「コミュ障(人づきあいが苦手)の批判的ナラティヴ現象学」(渡辺恒夫著)という論文が、『質的心理学研究』(№18)に掲載予定です。2019年3月、新曜社より発売予定。
 ラスト近く、すべてが長門有希の暴走の結果だと知ったキョンは、こう独白します。
 記憶をたどって引用するとーー「なんで情報統合思念体ともあろうものが、長門にもっとちゃんとした設定をしてやらなかったんだよ。あんな無口で鬱な娘なんかでなくって、朝倉涼子(註:情報統合思念体反主流派が送り込んだヒューマノイド型端末)みたいに、社交的でクラスでも人気者にだって設定できたのに‥‥」(註1)
 グサリときました。どんなに長門有希が「ルックスはA-級」に描かれ、しかもオタクたちの間でハルヒもみくるも及ばない人気を誇っているからといって、「ふつう」の高校生のキョンからしたら、「ちゃんとした設定ではない」としか見えないなんて。
 また、朝比奈みくるの大人ヴァージョンが、美貌で有能な時間パトロールとしてしばしば現れるのですが、その彼女にもまた、長門は、「あのひとちょっと苦手なんですけど」と評されます。
 なぜ苦手かを解釈すると、長門はガールズトークができないからです。
 ガールズトークに限らず雑談の会話というものは、録音してテープ起こしてみると、ほとんど意味をなしていないことが分かるそうです。だから会話の機能は情報を伝達することではなく、絆を確かめ合うことにある、というのが最近の学説です。
 長門は3年前に地球に「舞い降りた」のだから、絆などあるわけありません。
 それならなぜ、キョンとの間にコミュニケーションが成り立つのかというと、彼女は今まで、身を挺してキョンを護って来ました。それが任務だからです。
 コミュ障の特徴として、他愛のない雑談はできないが、仕事の上の会話はしっかりできる、ということがあります。
 長門はいわば仕事を通してキョンとの間に絆を作ったのでしょう。
 でも、ハルヒのいる世界では、彼女にとってキョンとのそれ以上のコミュニケーションは、極めて困難です。コミュ障は、三人という組み合わせを特に苦手とするからです‥‥

註1 原作『涼宮ハルヒの消失』(谷川流著、角川書店、2004)から改めて引用するとーー

 「情報統合思念体がどれだけ高度な連中なのか‥‥
 だったらと、俺は言いたい。
 この長門有希にもっとまともな性格を与えることだってできただろうが。殺人鬼になる前の朝倉みたいに、クラスの人気者になるような、明るくて社交的で休みの日に友達とショッピングモールで買い物をしているような、そういう奴にだってできただろう。なんだって一人寂しく部屋に閉じこもって本だけ読んでそうな、鬱な娘を設定しやがったんだ。」(p.244-245)
■長門有希に未設定の社交性機能って何?
 色々、考察をならべてきましたが、同じようなインターフェイス用ヒューマノイド型端末である、朝倉涼子は違っています。
 設定が違うのです。
 ウィキペディアを読んでいて、続編(涼宮ハルヒの驚愕)の紹介で、長門には社交性機能が設定されていず、自分でも残念に思っているらしい、といった記載が目に留まりました。
 社交性機能っていったいなんでしょう。
 これは、私自身への問いかけでもあります。なぜなら私もまた、社交性機能未設定のままで生涯を終えることになりそうだから。現象学的に厳密に言えば、「社交性機能未設定の渡辺恒夫が私である世界はそのまま遠からず終了になる」のだから)。
 だから「コミュ障の現象学的当事者研究」を始めたのです。

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